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神のパシリ 12

[394]  ディナー  2009-10-24投稿
引き戻される感覚が、確かにあった。

何かに、心を掴まれ、引き上げられるように、

ゼルは、その眼を開いた。

さぁぁ、と何かが流れるような音が、彼方でする。

雨音だ。耳に心地いい。

身体は、だるくもなければ重くもない、健常体だ。

使いは、命の消える峠さえ越えれば、回復は早い。

どうやら、ゼルは寝かされていたらしい。ゼルの身体には毛布のような物がかけられていて、その上から少女が、ゼルの腹部辺りに突っ伏している。

フードはとれていて、顔があらわになっていた。

死の神より、少しだけ大人びた、女を帯びた顔。長い睫毛をたたえた瞳は閉じられ、厚めの艶のある唇が小さく開いて寝息が漏れている。

小麦色に焼けた肌が健康的な色気を放つ身体は肉付きも良く、それがより女らしい丸みを持ったライン、脚線を生んでいる。

決して太いわけではなく、肌色、艶ともに健康的な美しさ、艶っぽさだ。

…だが、知らない。

その少女と女の狭間の者を、ゼルは知らない。

…だが、知っているようだった。

その少女と女の狭間の者は、まるで自分を知っているかのように、自分を全く知らない名前で呼んだ。

そして、おそらくここに保護してくれた。

ゼルは音もなくベッドから降りた。

「…んっ、うぅん…」

少女をゆっくり抱き上げ、ベッドに寝かせ、さっきまで自分がくるまっていた毛布を、はだけた豊かな胸元が隠れる辺りまでかける。

雨音は、この部屋の外から聞こえる。

ゼルは雨音を聞きながら、耳飾りを外し、尖端で壁に陣を薄く彫り込んだ。

こうする事で、主に自らの居場所を知らせるのだ。

応答はすぐにあった。

「…ゼルか。どうやらまだ命はあるようじゃの」

「はい。先程はお手を煩わせてしまいまして…」

「もうよい。して、今は?」

「人間に助けられました」

「…ほぅ」

主は、興味深そうに声を少しだけうわずらせる。

「今は傷も完治しております。…ですが、気になる事が」

「何じゃ?」

「俺を助けた人間は、俺を知っているようで…フェルゼルと俺を呼びました」

「…ほぅ」

小間使いの主の声色が、低く温度を下げた。

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