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友美の幽霊-?

[568]  矢口 沙緒  2009-10-24投稿
俺は着なれない喪服を着て、その黒いネクタイを大きく緩めて、ぼんやりと夜の国道を一人車で走っていた。少し開けた窓から冷たい風が車内に流れ込んでくる。

友美が死んだ。
友美が死んじゃった。
それが頭の中で何度も再生される。でも、何度繰り返しても、それを受け入れる事ができない。
だって、つい一週間前まではいつもと変わらずピンピンしてて、いつも通り俺に悪態をついて、誰よりも元気そうで…
それなのに急に死んじうなんて…

通夜の後で友美の女友達に、友美は小さい頃からずっと心臓が悪くて、いつ発作を起こしてもおかしくない体で、でもその事は俺に言わないようにと口止めされていたと聞いた。
でもさぁ、言ってくんなきゃ俺だって分かんないし、薬を飲んだり病院に行ったりしてるところ見た事ないし、今思えば俺に見せなかっただけかもしれないけど。
友美と暮らしたこの二ヶ月間、心臓が悪いなんて疑いもしなかったよ俺。
むしろ心臓だけは普通の人より強いほうだと思ってたよ。

煙草をくわえ火を着けて、大きく吸い込んだ煙を吐き出す。煙草を挟んだ指はまだ微かに焼香の香りがするし、煙は通夜の線香を連想させる。

しかし、友美って変な女だったよなぁ…
知り合って一週間もしないうちに俺の部屋に住み込んじゃって、自分の両親には女友達と同居している事になっているみたいで、だから俺は今日友達の一人として出席した訳だが…
二、三日家に帰って着替えなんか持ってくるね、なんて言っちゃって、そのまま家で心臓発作で呆気なく死んじゃうなんて…
同棲始めて、まだたったの二ヶ月だぞ。

友美は俺に対してまったく遠慮がなくって、よく俺の事をバカとかマヌケとか鈍感とか言ってたよなぁ。澄ました顔して言いたい放題だったなぁ…
「ほんと、あんたってバカなんだから」とか、
「あんたのそういうところがマヌケだっていうのよ」とか

でも、友美は決して本気で言ってる訳じゃなくて、彼女の言うバカとかマヌケは一種の親しみを込めた愛称みたいなもので、だから言われた俺も腹が立ったなんて事は一度もないし、むしろ半分心地よかったりして。
肩だって強くたたかれれば痛いだけだけど、適度にたたかれればマッサージになるみたいな、そんなバカ・マヌケだったよなぁ…
そう考えると、俺達ってすごく相性がよかったんだよな、きっと…

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