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神のパシリ 14

[389]  ディナー  2009-10-26投稿
「血のつながらない…私の兄さん…」

少女は、記憶を反芻し、小麦色の顔を紅潮させた。

「…そうか」

「…私には、優しくて憧れだったんだ…。フェルゼル兄は、悪い事をいっぱいした。でも、私には優しくて…私、それだけで嬉しかった…
元々、私は両親の顔すら知らないの。フェルゼル兄だけが、この腐った街で私を見つけてくれた。それだけで嬉しかったの。
フェルゼル兄はロロのアサシンだった。
盗み…殺し…
ロロのアサシンのギルドリーダーになっても、私だけは捨てずにいてくれた…」

少女は、力なくゼルに微笑んだ。瞳が、わずかに潤んでいる。

「…でも、報いだね…。死んじゃった…。
私の知らない所で、知らないうちに。私は、ただそれを知らされただけで…
信じられないし、信じたくなかった。…だから」

「…そうか、わかった」

ゼルは哀れみともとれぬ瞳で少女を捉えながら、煙草に火をつける。

「…お前、名前は」

「…レミーシュ。よろしく、ゼルさん」

無理のある笑みを浮かべる少女、レミーシュは、ベッドにハリのある脚を投げ出し座り直した。

「…で、さっきはどうしてあんな目に?」

「言っただろう、追われていると」

「あ、そっか…でも、さっきの、人じゃ…ないよね…」

「…だったら?」

「…あの人、羽があった。神の…使いなのかな」

「…だったら?救いを求めるか?使いを見つけて訴え、救われた街もあるというぞ?」

ゼルの意地悪な質問に、レミーシュは豊かな胸をはった。

「まさか。ロロで信じられるのは力だけ。誰も、他人や神を信じたりしないよ。
ここは汚い街。人のいろんな悪い所の掃きだめだよ。生きるためには、必要なのは自分の力だけ。
信頼なんてない。あるとしたら、損得勘定だけだから」

自信を持って言い放つレミーシュ。

本来、人間なんてこんなあさはかなものだ。

だが、ゼルは死の神の小間使いでありながらも、そのあさはかさに少し哀しくなった。

つくづく思う。

全能と言われる神が創りだした命でありながら、このていたらくか。

「…そうか」

嘆息するゼルの視線の彼方、錆び付いた扉が、ぎしぎしと音を立てて開いた。

人影が、二人しかいない部屋に落ちた。

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