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肌とねこ3

[304]  KSKくま  2009-10-28投稿
子猫の危機を救ってくれたおじさんは「今関」という人だった。表札で知った。
今関さんの表札には訪問販売員が書いたと思われる「K」の文字があった。「キック」の「K」。販売員を一蹴したらしい。優柔不断そうではなかったが、なかなか剛直な風でもなさそうだったので、ちょっと意外だった。書かれたのはかなり前らしく、文字はかすれていた。気付いていないのか、わざと残しているのか、どちらにしろ、セールスは寄り付かないだろう。
真似してみようかとも考えたが、すぐに感化される自分の悪い癖を思い出し、やめにした。しかし、猫の名前は「キック」と名付けた。厄除け猫だ。

休み明けの出勤日。休暇らしい休暇ではなかった。引っ越しの片付けと、後は少し自堕落な生活。怠け癖がついたのか、仕事ははかどらなかった。それは私だけではないらしく、部署の中は緩慢な雰囲気に包まれていた。
隣の席の先輩は昼食後に舟を漕いでいた。休み明けらしい光景だった。課長はそれを見て、その場では何も言わなかったが、帰り際に半強制的に部下を飲みに連れ出した。
予想はしていたが、やはりお小言がいくらか口を突いて出た。
「少々たるんでる」
「時間内は集中しろ」
「遊びの疲れを残すな」
等々・・・
言われて当然の事だった。しかし、課長はそのぐらいで止めて、多めにお金を置いて帰っていった。これで翌日の士気が上がるかは分からないが、課長はやはりいい人だった。

居酒屋からの帰り道のことだった。

足音が私を追ってきた。送って行こうという同僚の言葉を断ったことが裏目にでた。タクシーを使えば良かったと思っても、今更のことである。
走ると全力で追われる。速足で歩き、振り向かないように心がけた。少しずつ距離が縮まってくる。
しかし、どうにか逃げ切った。二百メートルほど空けてマンションに入った。ロビーに番号認証があるので、住人以外はそこからは入って来られない。案の定、足音の主は入って来なかった。柱に隠れ、相手を確認すると、二十代後半の男性だった。

動悸と恐怖を胸に秘めて部屋に入って鍵をかけた。

その時、
「ニャア」
と猫が擦り付いてきた。真っ暗な部屋で突然脚に触れられて息を詰めたが、キックだと分かり安心した。
彼を確認するように頭を撫でると指を舐められた。

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