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道しるべ

[421]  トンテン  2009-11-01投稿
「……」目覚ましが鳴る前に目が覚めた。
いつもなら目覚ましの音にイラつきながら、重だるい体を無理矢理起こして、時計を見て慌てて朝食の用意と身支度を始める。
「私…どうしたんだっけ…?」部屋を見渡し、壁に掛けてあるカレンダーに目をやると、昨日の日付に丸印。その下には[夫・誕生日]のメモ。
(そうだった…。昨日は夫の誕生日だったんだっけ…。)
結婚し、子供もなく、兼業主婦になって、気がつけば五年の月日が流れていた。夫はいつの間にか、外に女を作り時折、一晩帰って来ない事もある。
夕べは 仕事を早目に切り上げ、それなりの料理を作り、欲しがっていたプレゼントを用意して帰りを待っていた。
そして そのままソファ−で寝てしまったらしい…。
「またか…。」そう呟きながら、用意した手付かずの料理をラップに包み冷蔵庫にしまう。
この時は悲しみは愚か、怒りすら湧いて来なかった。
いつも通り身支度を済ませ、会社へと向かう。
(どこを見ても人波だらけ…。)そんな事を考えつつ自分もまた、その人波の一部に飲まれている。
いつもの駅。いつものホーム。いつものガイダンス。いつもの列車。いつもの満員電車。ここから会社まで三十分。
「はぁ…。」ため息がもれた。
何故か…虚しくなった…。
気が付くと、その人波に逆らって歩いている自分がいた。
(あ…れ…?)
自分の意志と身体が正反対の動きをしている。
足はずんずん反対方向へ進み、やがて会社とは まるで別方向の電車に乗り込んでいた。(私、何でこの電車に乗ってるの…?遅刻しちゃう…。会社に電話しなきゃ…。)そう思い携帯電話を取り出そうと、バッグをあさる。(…ない!?)どうやら、充電したまま忘れてしまったのだ…。
そのとき、心のどこかで諦めと同時に、全てを投げ出したい衝動にかられた。
(このまま…行ける所まで行ってみようかな。)電車はそのまま私を乗せて走り始めた。何だか、悪い事をしているような軽い罪悪感でドキドキしてきた。
それでも一時間もすると、見た事のない町並みが車窓を通し私の中に次々と飛び込んでくる。普段の狭い行動範囲では見る事の出来ない景色。辺り一面、緑や金色に輝く自然の絨毯が疲れた心を解してくれる。少しずつ心の鎖から解放されてゆく様な穏やかで優しい時間が流れている。そしていつの間にか眠りについてしまった。{続く}

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