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神のパシリ 23

[395]  ディナー  2009-11-06投稿
「…さて、僕の勝ち…でいいかな?」

キアはニヤニヤ笑いながら、ナイフの切っ先をゼルの首筋に撫で付ける。
地獄の蜘蛛の糸のように、赤い筋がゼルに無数に走る。

「…貴様の素性が先だ」

ゼルは口元を引き絞り笑い返す。

「…強情だなあ」

蒼いナイフが、音もなくゼルの二の腕に沈む。

血が、蒼いナイフに馴染んで紫色に光る。

「もう意地の張り合いはよそうよ。…殺しちゃうよ?」

「貴様もな」

「…僕のどこが?今ピンチなのは君だよー?」

「どうかな」

もう片方の二の腕にナイフが刺さろうという時、

ゼルは何事か呟く。

人には理解できない言語のものを。

それは、肉を破る僅かな音にすら掻き消されていた。

「…次は足かな」

キアが、ナイフを肉から抜き放つ、その時。

滅亡を、死滅を感じさせる空気。

背後にただならぬ気配を
察知して、キアは思わず振り向いた。

そこには、ゼルが手放しているはずの死の大鎌が、ひとりでに動き、キアの背後に忍び寄っていたのだ。

キアがぼやいた。

「…あちゃあ…」









キアの、ナイフを持っていた腕が宙を舞う。

続いて、キラキラと飛散する血飛沫。

そのまま、大鎌は宙を踊り狂い、キアは断たれた腕を掴み跳び下がる。

踊り続ける大鎌は、まるで意志があるかのように、ゼルを束縛する鎖だけを見事に切断する。

両の二の腕から血を流す主の手元に、かしづくようにおとなしく、大鎌は収まった。

「形勢逆転というのは、こういう事じゃないのか…?」

ゼルは、キアに向けて皮肉めいて笑いかけた。

それでも、キアの目は細いままだ。もしかして元からそんな細さなのだろうか。

「…分かった、分かったよ。僕の負けだ。」

そう言ってはいるが、キアはまだまだ余裕のようだ。冷静に腕の切り口同士をくっつけている。

「…ちょっと休ませてくれないか。血が足りないみたいだ」

「…いいだろう」

お互い血を流しながらも二人はその場に座り込む。



キアは、唐突に切り出した。



「…僕も、パシリなんだよ。……神様のね」

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