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神のパシリ 31

[365]  ディナー  2009-11-14投稿
「…ゼル…ゼル…」

久方ぶりにその言葉を聞いたのは深夜の事だ。

体を起こすと、レミーシュの地下室のひと部屋だった事を思い出す。

珍しく、居場所を再確認しなくてはいけないほど、深く眠っていたようだ。

レミーシュは、厳重に施錠されたドアの二つ向こうの自らの寝室だ。

ゼルは物置を間借りしている。

自分を警戒しているのか、信頼しているのか理解し難い。

「…御呼びで」

「…眠っておったか。珍しいのぅ。確かに体は人間、睡眠は必要だが…らしゅうない」

「失礼しました」

「よいよい。
…満月が近いのぅ。力が拘束されるのが分かるわ…そなたも分かっておろう」

「…はい」

「…して、進捗を聞こうかのぅ」

ゼルは、自らでも目眩を覚えた、目まぐるしい展開を説明した。


キアという存在と、その正体。

魂喰いへの、ゼルとキアの考察。

鼠の捕り方。

餌の、餌たる理由。

すなわち、レミーシュとレミエルの関係性。

此岸の向こう側、彼岸の先の小さな主は、時折けらけらと笑って聞いていた。

「ほんに面白いのぅ。因果とは、しかして正にそんなものじゃ。しかし、月の者なら利用しやすい。ゼル、救われたのぅ」

「はい…」





ゼルは唐突に切り出した。

「主よ」

「…何かあるようじゃな」

「…俺は一体何者なのですか」

「…人に掻き乱されたか」

「だけではありません。月の小間使いも、俺を乱した揚げ句、語りませんでした。
そろそろ話して頂けてもよろしいかと」

「腑に落ちんのが気分を害するか。
まぁ、知っても自我が揺らぐだけだと思うがの。

忘れるなゼルよ。そなたはわらわが道具に過ぎぬ」
「…ならば、道具に自我など与える必要がありましょうか」

「…戯れよ。光の大神を真似てみたかったのじゃ。わらわへの、死への真の理解も欲しかったしのぅ」
「…話されるおつもりはないと?」

「…今は、の。賢しい詮索は無用じゃ。わらわは月ほど奔放ではない。
…そなたのためにも、じゃ」

彼岸から届く、高圧で冷たい言の葉に、ゼルは諦めるしかなかった。


月が、豊満なその身を黒い夜空に浮かべていた。

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