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神のパシリ 31

[382]  ディナー  2009-11-15投稿
その日も、汚れた街には雨が降っていた。

街の汚れを、人の体温のように生温いシャワーで流そうとしている。

血の匂いも。

死体の香りも。

狂気や謀略、敵意や悪業の数々の臭さを。

代わりに、街に漂うのは、生臭い水の匂い。

その雨のなか。










「お、ウチのはっ水スプレー使ったみたいだね。どう?」

「悪くないな。傘の華も情緒がある気がするがな」

「でも、あれは面倒だよ。レインコートは動きにくいしダサいしさぁ」

雨中に煌めく、鳩血色の瞳と蒼煙色の瞳。

ゼルと、キアだ。

二人の神の小間使いが、この腐った街に顔を突き合わせている。

偶然なのか、因果による必然なのか。


更に、本人も知らぬ、二人のみが知るもう一人の小間使いも現れるやも知れぬ。

数奇なものだ。

雨で黒い長髪を濡らしながら、ゼルは目の前に広がる煉瓦の平野を見た。

いびつで、所々破壊された広場という人工の荒野には、オフホワイトの服を着た光の小間使いの動力源たる者がいる。


未知の存在への、撒き餌として。

他にも、いくつかキアの若い部下が撒き餌として配置されている。


後ろ向きな、保険としてだ。

「…さて、獲物はどう出るかな…?」

キアは右手を上げ、指を立て、くるくる回す。

作戦開始の合図だ。
部下が、二人の前から散り散りに散っていく。

遠くから、二人に澄んだ水のように潤んだ視線を投げ掛けるレミーシュも、行動を始めた。

今回、レミーシュは花売りという設定だ。
街行く人に、赤い薔薇を売って歩く。

当然売れる事などないのだが、不思議と花売りはこの街に多い。不自然ではないはずだ。

ゼルは、時が流れ行くのを待った。

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