携帯小説!(スマートフォン版)

トップページ >> 恋愛 >> 魔女の食卓 11

魔女の食卓 11

[371]  矢口 沙緒  2009-11-15投稿


「もうしばらく行くと、左に登る細い別れ道が見えますから、それを入るとすぐです」
川島美千子がそう言い終わる頃、うっそうと茂る木々の間に、ヘッドライトに照らされて、やっと車が一台通れる位の細い別れ道が見えた。
彼はハンドルをきり、その緩やかな登り道を進んだ。
道はすぐに途切れ、森に囲まれた広場に出た。
その広場の中央に一軒の家が建っていた。
しかし、ヘッドライトに浮かび上がった建物は、家といっても普通の民家や建て売り住宅などとは異なった物だった。
小さな木造二階建ての、ログハウスに近い建築物で、ただログハウスと違うのは、三角形の屋根には色鮮やかな赤い瓦が敷き詰められている。
丸太を組み合わせたような側壁は白く塗装されていて、大きな窓がいくつも並んでいる。正面の入り口は、玄関と呼ぶにはあまりにも大きい黒い二枚扉によって、重々しく閉ざされていた。
そして、その扉の上には、何か看板らしき物が掲げられている。
すべての窓に明かりはなく、暗く静まり返っていた。
「ここが君の家?」
「ええ、変わってるでしょ。
だって三年前まではレストランだったんですから」
「レストラン?」
「母がやっていたんです。
あの、よかったらお茶でも…」
川島美千子はそう言って車から降り、正面の扉に歩み寄って行った。
石崎武志もその後に続いた。
彼女が鍵をガチャッと回し、その重々しい扉の一枚を開くと、ギギィーという軋んだ音が静寂の森に響いき渡った。
開いた暗黒の闇の中に、彼女はするりと滑り込むように入った。
程なくして、その扉の中が一瞬にして明るくなった。
石崎武志は、扉の上に掲げられた看板を見上げた。
さっきまでは暗くて読み取る事が出来なかった看板の文字が、今ははっきりと読めた。
『サマンサ・キッチン』
と書かれてあった。
「どうぞ、遠慮せずに入って下さい」
中から川島美千子の声がしたので、石崎武志は扉をくぐった。
そこはまさしくレストランだった。
とても小さいが、明るく清潔そうな店内、四人掛けのテーブルが四組あって、それが左右の壁沿いに二組づつ配置してあり、そのテーブルのひとつひとつに、大きな窓がひとつづつあてがわれていた。窓には淡いピンク色のレースのカーテンがふっくらと掛かっている。

感想

感想はありません。

「 矢口 沙緒 」の携帯小説

恋愛の新着携帯小説

利用規約 - サイトマップ - 運営団体
© TagajoTown 管理人のメールアドレス