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流狼−時の彷徨い人−No.26

[436]  水無月密  2009-11-19投稿
 折れた刀を見つめる政虎。
 構造上、日本刀は根元が脆くなっている。
 だが、これほどたやすく切断する者を見たことはなく、政虎はその実力を認めざるを得なかった。
「お前の剣は、どこか後藤半次郎の太刀筋に似ているな」
 政虎はそういって微笑んだ。
「あの日以来、私はずっと半次郎殿の背中を追い続けています」
 少し悲しげに微笑みかえす半次郎。
「必ず生きて戻ってくると約束できるか?」
 政虎の問いに、半次郎はまっすぐに答えた。
「お約束します」
「ならば行ってこい。そして切り開いてくるがいい、お前が描く未来への道を」

 馬に跨がり駆け去る半次郎。その背中を見送る政虎は、直江景綱を呼んでいた。
「景綱、敵に大攻勢をかける。然る後に軍を後退させ、陣を整えて半次郎を待つ」
 政虎は指示を終えると、馬に跨がり最前線へと駆けて行った。
 陣頭指揮こそが彼の真骨頂であり、ここぞという場面ではそこに立っていた。
 最前線の兵士達は政虎の存在を感じることで奮起し、戦闘能力を遺憾無く発揮していた。
 そこに上杉軍の強さがあったのかもしれない。


 敵陣を単騎で駆け抜ける半次郎は、多くの敵と剣を交え、その中で更なる進化を遂げていた。
 政虎と剣を交えた際、気に指向性がある事に気付いた半次郎は、対峙する相手の刀にのみ、僅かな気を送る技術を身につけていた。
 そうすることで発動時間は極端に短縮ができ、次々に現れる敵に対処できていた。

 この戦闘中にも、新たな発見はあった。それは刀を折られた相手が、高い確率で戦意を喪失することである。
 殺生を好まぬ半次郎はこの戦術を常套手段とし、以後の戦闘に多用するようになる。

 武田軍の中を、彷徨うように疾走する半次郎。
 そしてたどり着く。
 十年前に自分を厭い、殺そうとした実父、武田信玄の下へ。


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