携帯小説!(スマートフォン版)

トップページ >> ノンジャンル >> 流狼−時の彷徨い人−No.28

流狼−時の彷徨い人−No.28

[426]  水無月密  2009-11-26投稿
 抜刀した半次郎を、近衛兵が一斉に取り囲んだ。
 彼等はえりすぐりの兵士であり、発する気から能力の高さを察することができた。
 中でも信玄の傍らから離れず護衛している男からは、尋常ではない力を感じていた。
 半次郎はこの男を知っている。武田家の中で一ニを争う剣の使い手、南雲一蔵である。

 これだけの敵を相手にし、窮地に立たされた半次郎だったが、彼の気には僅かな揺らぎもなかった。
 信玄を切ると決めた時点で、彼は心を無にしていた。
 それ故に動ずることなく、素早い気の発動を可能にしていた。
 だが、十ニ名もの手練を相手に、全てに対処するだけの気の発動は、まだ半次郎には無理であった。
 しかし彼は、その問題すら瞬時に解決させていた。

 半次郎は全ての空間に気を張り巡らすのは無理だと感じると、自分の間合いにのみ、気を張り巡らした。それにより、死角からの攻撃にも即座に対応ができるのである。

 取り囲まれた半次郎は、その中心で平青眼に構えていた。
 その立ち姿は力みのない自然体で、美しくさえ見えた。
 彼に僅かの隙も見出だせない兵士達は、数で圧倒しながらも攻めあぐんでいた。

 意を決した一人の兵士が前方より距離を詰めるが、それでも半次郎の構えは崩れない。
 その兵士が間合いに入る寸前、背後から音も無くにじり寄る兵士が半次郎に襲い掛かる。
 間合いを侵犯した敵に反応し、刀を振り払う半次郎。すると、澄んだ金属音を奏でて相手の刃が宙を舞った。
 小枝でも切断するように刀を切り裂いた剣技に、兵士達の気が一瞬乱れた。
 半次郎はこれを見逃さず、一気に攻勢へと転じる。

 武器を奪われても戦意を失わぬ眼前の兵士は、すぐさま脇差しに手をかけるが、抜くよりも先に半次郎の刀が足を貫いていた。
 続けざまに後ろの兵士の足も貫いき、瞬時に二人の戦闘力を奪うと、半次郎は一蹴りで他の兵士との距離を詰め、三人の四肢を切り付けていた。

 瞬く間に五人を倒した半次郎に、残りの近衛兵達は一斉に襲いかかった。
 その兵士達の合間を、林の中を吹き抜ける風の如く、半次郎は駆け抜けていた。
 その疾風が過ぎ去った跡には、四人の兵士が倒れていた。足を切られた者、肩を貫かれた者と様々だったが、誰一人として命を絶たれた者はいなかった。

感想

感想はありません。

「 水無月密 」の携帯小説

ノンジャンルの新着携帯小説

利用規約 - サイトマップ - 運営団体
© TagajoTown 管理人のメールアドレス