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真理康子

[1208]  真理康子  2009-11-30投稿
梅が、香った。
結衣子は、ゆっくりと坂道を登った。
今日の仕事を終えたら、一着、服を見に行くことにしていた。
贅沢でもなんでもなく、結衣子は、時たま、外出用の衣類を買った。
若い頃より、自分で働いた賃金の一部を、おしゃれに使った。
それは、ずいぶんささやかな金額でも、結衣子にとっては、自力を振り返る良い機会であった。
一人息子の衣類も、モノの良いものを選んだ。
若い頃、買った服は、千鶴子と房子が「貸し下され」式に、ちょっと油断をするや否や、彼女達の箪笥に入った。
おそらく、二度と、こんなに気に入るコートには出会えないだろうと思った、会社勤め当時の旅行着は、母親が、駆け落ちに持ち出し、数年やの後、ヨレヨレにして、自分の衣類に混ぜているのを見た。
その社員旅行の為に買ったスーツの上着も、そこにあった。

房子も同様だった。 一生懸命働いて苦労して、欲しい衣類を手に入れても、親子で持っていく神経の図太さは、計り知れなかった。

結衣子が業を煮やして、自分の衣類を一室におくことで、浅ましい母娘が、自分達の衣類が少ないことをボヤき、一方的な怒りを結衣子に持つことに対し、聞く耳を持たないことで、距離を置いた。
息子が学校を出て、社会人となれば、家賃の心配もなく、息子と家を出て、彼女達と別居することが、結衣子の願いであった。
彼が、大学に進んで下宿を希望した時には、喜んで手放した。

その間は、父親死去すぐに、お金の入ったカンバコをこそこそと家に持ち込んだ、母と妹は静かになった。
おそらく、父親の遺産を二人絞めしたのだろう。
結衣子名義のものは何も作らず、結衣子の息子名義の200万を証書にして、大儀そうに渡してきた。

結衣子は、この時、宙を向いている二人の目を、心底、恐ろしいと思った。
わずかな金子は、息子の学費に消えた。

一刻も早く離れないことには、いつか、ご託を並べあげて、刃傷沙汰をおこす…。
結衣子は、この、不気味な予感が思い込みではない確信を持っていた。

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