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ベースボール・ラプソディ No.12

[549]  水無月密  2009-12-23投稿
 相対する大澤は、バットを握る手に力が増していた。
 レベルの上がった投球フォームを目の当たりにし、眠っていたスラッガーとしての嗅覚が、瞬時にその危険性を嗅ぎとっていたのだ。

 大澤の反応をよそに、八雲のしなやかで力強い投球動作は、流れるように続いていた。
 そして右腕が振り抜かれた時、無機質なボールは命を吹き込まれ、大気を切り裂きながら白い軌跡を描き始めた。

 速度に換算すれば、確実に百四十キロを越えていようそのボールは、ホームベースまでの距離を一気に駆け抜けていた。
 大澤はそれにすら反応してみせたのだから、ポテンシャルの高さは称賛に値するだろう。
 だが、反応したことが精一杯の抵抗だった。
 闇雲に振り出されたバットが八雲の直球を捕らえられるはずもなく、虚しく空を切り裂いただけだった。


 フルスイングしたまま固まる大澤。
 彼自身、これほど見事に三振した記憶はない。
 その大澤に力強く右腕を突き出すと、八雲はまっすぐに想いをぶつけた。
「オレはこの右腕で大澤さんを、仲間を守り抜いて見せる。
 だから一緒にやろう、大澤さんっ!」
 大澤を縛りつけていた鎖が、一気に砕けて散った。
 始めてバットを手にした時の感動を思い出した彼に、もはや野球を拒む理由はなくなっていた。


 哲哉を初めとする仲間達が八雲のもとへと駆け寄り、マウンド上で喜びを共有していた。
 その光景を見つめる大澤は、一人冷笑していた。
「めでたい連中だ、素人同然の俺に勝ったくらいで、ああも大騒ぎできるんだからな」
 尚も八雲達を見つめ続ける大澤。
「…だが、何事にも熱くなれないよりは遥かにましだな」
 自嘲する大澤の目からは澱が消え、澄んだ青眼へと変わっていた。

「大澤さん、入部してくれるっスよね」
 揉みくちゃにされる八雲が、大声で語りかけた。
「…悪いが今日は帰らせてもらう」
「何でだよっ!」
 予期していなかった大澤の言葉に、八雲が即座に噛み付いた。
 それを制止して間に割って入ると、哲哉は穏やかな笑顔を大澤にむけた。
「今日は、ですね」
「ああ、見ての通り、今日は体操着すら持ってないからな、入部は明日からにさせてくれ」
 哲哉達に大澤の申し入れを断る理由はなく、快諾して大澤を見送った。


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