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神のパシリ 58

[422]  ディナー  2010-01-01投稿
誰もいないのか。

息を、潜めているのか。


かつて汚れた街と
呼ばれた街は、
汚れた人の欲が
作り上げたものだった。

今、それは静寂に
支配されている。

雨はあがり、街は渇き、
それでも、命の燭を
感じない。

街は、死のうとしていた。

何もない、汚れた…

汚れていた、ロロ。





そこに、一人の女。




レミーシュだ。

無垢な瞳は、
かつて相棒と、
父親がわりと慕った
男の亡きがらを
写し出している。

「メッツェ…」

涙が溢れた。

これを、この所業を
行っているのは…
街を殺したのは…
かつて自らが愛していた
かも知れない男…


肉体を失い、
魂を売り渡し、
全て変わり果てた男…









今、目の前にいる…



魂喰い。



「レミ、やっぱりオレを
求めてくれたのか?」

嬉々としてにやける
目の前の女は、
右手を二つ持っていた。


かつて切断された左腕に、かつて切断した
死の小間使いの右腕を
付けたのだろう。

荒々しく粗末な接着面が、なんとも即席だ。

しかし、もうそれにも
レミーシュは動じなかった。


泣き腫らして赤くなった
目で、しっかりと、
変わり果てた
『フェルゼル』
であった者を見つめる。


「…もう…戻れないよ…。あんなに仲間だって
言ってたメッツェまで…

本当に、変わってしまったの…?」

「オレは変わってないぜ。いつも通りさ…ほら、
来いよ…」

両の右腕を広げる
魂喰いを見るレミーシュ
の瞳は、

もう………


『フェルゼル』
としては映さない。


「さよなら…


…愛してた…」








二つの気配が、その場に
新たに現れる。

「…二度もかかるとは…
キミも学習しないねぇ」

蒼く煙る瞳を持つ者と…

「哀れだな…そして、
……醜い」

血のように煌めく瞳を
持つ者…。



神のパシリ。



魂喰いは、
空を仰いだ…。



月は、そこにはなかった。

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