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涙道 1 〜貧しい少年物語〜

[701]  るー6  2010-01-10投稿
まだ、夜も明けていない。冬の午前4時。
誰もいない住宅街に、1人新聞を配る少年がいた。
服は汚れていて、体は痩せていて、とても裕福な家庭の子とはいえない。
斎藤元気。16歳。
経済面で、高校にはいけない。
元気はただ、家族のために、働くしかなかった。

新聞配達を終えると、印刷工場で働いた。
朝の7時半。通勤、通学する人が工場の前を行き交う。
「おい元気!何もたもたしてんだ!」
元気の疲れを知らない工場長の丸井忠広。57歳。目は鋭く、いつもタオルを頭に巻いている。
「はい!すいません!」
すると、耳元で誰かに囁かれた。
「コレ運んだら、メシ食っていいぞ。」
工場長とは正反対の先輩、青木直人は、元気の4つ上の20歳。元気に対して優しくしてくれて、元気からしてみれば、「兄さん」みたいな存在だった。
「ありがとうございます。…でも。」
「いいから。何も食ってねぇんだろ?」
「…はい。じゃあ、失礼します。」
元気は仕事を終わらせ、こっそり工場の入り口に回って、おにぎりを食べた。
入り口なので、工場の前を通る高校生達に時々言われる。
『汚っ!』とか、『貧乏臭っ!』とか。
でも、元気は気にしていない。
多少傷つくが、いちいち気にしてては、気がまいりそうだから。
でも、とうとうこの時が来た。
「おい!お前なんかムカつくんだよ。」
「貧乏臭いんだよ。」
「いや…。」
「何だよ。文句あんのかよ。」
元気はその場を離れようとしたが、すぐに腕をつかまれた。
振り返ったらすぐに殴られた。
「殴りに来ていい?今日も明日も。」
元気はその場に倒れた。
倒れるのもしょうがない。朝は新聞配達、夕方まで工場で働き、夜は家事に追われる。
母親は重いうつ状態で家事ができず、父親は交通事故で亡くなった。家計はもう火の車だった。
元気の目から、涙が出てきた。
殴られた悔しさと怒りでいっぱいになった。
でも、反抗できなかったんだ。

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