アオイ、そら。
『アオイ、そら。』
私,
下内反実(かないそらみ)の通う高校はクラス替えがない。
だから高校生活三年目にもなると,
クラスメートの人柄や性格が手に取るように分かる。
未だ,ただ1人,
多哀蒼(たかなしあおい)を除いては。
1-1 悲しき蒼
多哀蒼。
一年の頃から友達もいなくて地味な存在だった。
いじめなどではない。
アイツは自ら自分を塞ぎ込んで,人と関わる事を拒んでいる様に見えた。
だから私は,
それまで多哀とは一度も言葉を交わしたことはなかったし,
アイツの笑顔さえも見た事がなかった。
つまり,興味がなかったのかもしれない。
私は自分が楽しければそれで良い様な,
嫌な奴だったから。
初めて多哀を気にする様になったのは,
高二のまだ暑さの残る初秋の頃だった。
その時,私は駅前のショップで友達の買い物に付き合わされていた。
その帰宅途中だ。
多哀が一人で街灯もない外れの道を歩いているのを見た。
そこは町の時代遅れの不良達が怠慢をはったりする,[怠慢通り]とか呼ばれる場所だったから,
― まさか多哀がね‥
なんて思いながら後を付けた。
だって,あの多哀が不良と喧嘩なんて見ものじゃないか。
けれど,
急に言いようもない恐怖が私を襲った。
先を行く多哀が立ち止まって,
振り返り私を見たんだ。
そして一瞬,
真っ暗闇の中でに多哀の目が月に反射して,
キラリと光った。
その視線の冷たさに,思わず硬直してしまった。
アイツは私の存在に,
端っから気づいていたのかもしれない。
大きな目を恐ろしい程見開いて,
アイツは言った。
『君の様な人間には興味ないよ。』
ってね。
その後,
何があったのか覚えていない。
気付いたら,家に居た。
自分がどうやって帰宅したのかさえも思い出せない。
― 多哀には何かある。
その出来事からそう確信した私は,
その謎を解明すべく,
翌日からしつこく多哀に付きまとうようになる。
・・続く・・
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