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イズコノキオク3

[605]  春風揺  2010-01-25投稿
「で、コウ兄進路どうすんの?」

戦乱の後、落ち着いた食事中の他愛もない会話である。

「兄貴はどこだっけ?」

「質問を質問で返すなよぉ!東大でしょ」

「…そっか。」

「ん?」

うちの兄貴、照哉は三つ歳の離れた名門東仙大学、通称東大の二年生である。まぁ放浪癖というか兄貴は家に帰っておらずこの場にもいない。二年も帰って来なければ放浪というのも疑問だが。

「い、いや全く御苦労なこったぁ〜ね〜。」

「何を人事みたいにぃ。コウ兄もテル兄みたいそこ行くんでしょ?」

「さ、さぁ?どうだろね〜。ご馳走さん。」

「あぁ!ちょっ―」

後ろで何か聞こえるが気にしない。自分の部屋へと駆け込んだ。あまり進路に興味がない…という訳じゃないが今はそんな気分じゃない。

ベッドに突っ伏した。目を閉じると、唯一のある記憶が蘇る。

時は二年前に戻る。あの事故直後だ。あの朦朧とする意識の中、俺はある人影を見た。それは男だった。三つくらい年上の、それも毎日見ている、あのいつも優しい兄だった。

兄貴は俺の意識の途切れる前にこう告げた。

「御前は流れに逆らった。それが罪人にかせられた科(とが)の重さだ。」

その一言で俺の意識と記憶、そしてあの優しかった兄貴が俺の元から去っていった…。

「そんなんで…兄貴の所なんか行けるかよ…。」

遭ってしまうと事実が知れてしまうから。

昔の自分が知りたいけれど。

今までの自分が違ってしまいそうで。

この自分の存在自体がなかったことにされそうだから―\r

そんなことを思いながらいつの間にか夜が明けていた。

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