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ベースボール・ラプソディ No.17

[602]  水無月密  2010-01-28投稿
「そういや、てっつぁんよ」
 練習を終え、道具を片付ける八雲は、ふと前日を思い出して哲哉に問いかけた。
「んっ?」
「顧問の件はどうなったのさ?」
「日本史の大原先生っているだろ、試合に引率してくれるだけでいいからってお願いしたら引き受けてくれたよ」
「…あ〜、あのお地蔵さんみたいなじっつぁんか。老人を騙して顧問にするとは、てっつぁんも悪いヤツだなぁ」
「人を悪徳詐欺師みたいにいうな」
 からから笑う八雲は、グランドを見渡した。
 そこにある仲間達の姿に笑みをもらすが、その中に小早川の姿はなかった。

 意を決して野球部に転部した彼だったが、いくら伸び悩んでいるとはいえ、百M十秒台にとどきそうな足を陸上部が簡単に手放す訳がなく、掛け持ちならばという条件で野球部に籍をおくことを容認されていた。
 便宜上、顔をださねばならなくなった小早川は、最後の三十分だけ陸上部に戻っていた。

「何にせよ、ようやく試合ができる段階までたどり着けた。後は予選までに、どれだけ強くなれるかだな」
「そうだな」
 極上の笑顔で語る八雲に、哲哉は相槌をうった。


「それでは先輩、お先に失礼します」
 道具の片付けを終えると、哲哉は八雲とともにそそくさと帰り支度を始めた。
「お疲れさん、また明日な」
 キャプテンの織田がそういうと、大澤は驚いて哲哉を見た。
「まだトンボ掛けが終わってないぞ?」
「それは先輩達がやってくれますから、自分達はもうあがりましょう」
 哲哉の言葉に、大澤がむっとした。
「それは先輩達に失礼だろう」
 礼節を重んじて非礼を正す大澤を、織田が笑顔で制した。
「いいんだ大澤、お前も今日は疲れただろう、帰って身体を休めてくれ」
「しかし……」
 戸惑う大澤に、わからない人だといわんばかりに八雲が開口した。
「大澤さん、人の厚意を無下にするヤツはろくな死に方しないよ」
「お前なぁ」
 ため息をつく大澤に、哲哉が微笑みかけた。。
「各自が自分の出来る事をやる、それがチームの基本だから、自分達もそれに従いましょう」


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