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ベースボール・ラプソディ No.26

[502]  水無月密  2010-03-24投稿
「大澤は楽しんでやってるみたいだな」

 ゴムチューブを使ってストレッチをしていた八雲は、聞き慣れぬ声に振り返った。
 そこには金網ごしに大澤を見つめる、三井の姿があった。

 初対面である八雲は、訝しがって眉をひそめていた。
「……アナタ、誰?」
「大澤の数少ない友人の三井だよ」
 三井が親しみをもってこたえると、八雲は警戒をといて笑顔を見せた。

「そうですか。オレはてっきり大澤さんに恨みがある人が、仕返しにでも来たのかと思いましたよ」
 無邪気に笑う八雲。
 この笑顔が大澤をグランドに呼び戻したのかと思うと、三井は感謝の念が溢れだしていた。
「大澤とは小学校からの付き合いだが、俺にはあいつのしがらみをとってやることが出来なかった。だから礼を言わせてくれ。
 ありがとう、真壁。あいつを野球部に誘ってくれて」

 深々と頭を下げる三井に、八雲は照れを笑顔で包み隠した。
「あの人から野球を取り上げたら、将来ろくな人間にならないでしようからね。
 これも世の中のためですよ」
 カラカラ笑う八雲の頭上に、大澤の拳が飛来した。

「練習をサボって野球見物とはいい身分だな、和也」
 足元にはいつくばる八雲には目もくれず、大澤は微笑を浮かべて三井に語りかけた。
「お前の事が気になってな。どうだ、野球部の居心地は?」
「生意気な後輩がいる以外、何一つ不満はないさ」
 久しく目にしていなかった友の笑顔に、三井は安堵して頷いた。

「いらぬ心配だったようだ。
 余りサボってもいられないからな、もう戻るよ」

 走り去る三井を見送る大澤。
 気付けば、八雲も肩を並べて見送っていた。
「いい人みたいですね」
「……あの件以来、周りの人間は皆態度を変えたが、あいつだけは変わらずに接してくれた。
 俺が友と呼べるのは、あいつだけだった」

 自分に哲哉がいたように、大澤にもそういう存在がいてくれたことを八雲は喜んでいた。
「友達のために頭を下げれる人は、そういるもんじゃないです。
 特に大澤さんみたいな粗暴な人には得難い存在だから、大事にした方がいい」
「……粗暴で悪かったなっ!」
 大澤の張手が八雲の後頭部を襲うが、予測したいた彼はダッキングして難無くかわしていた。



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