航宙機動部隊第四章・4
二人分のコーヒーを用意した従卒の少年が、それぞれを執務卓とマホガニー製テーブルに置いて、一礼して退出して行った。
リクはソファーで両膝を鷲掴みにしながら、
『閣下もご存知でしょう―あのニー=ウー伯爵公女、あなたがたと同胞の筈のマエリー嬢ですら、フーバー=エンジェルミの毒牙にかかり、身勝手な逆恨みで殺された事を。それでもなお、連中を許すとおっしゃるのですか!?』
ネカイア公は少なくとも表向きは落ち着き払った様子でコーヒーを手にして、
『彼女の事は真に遺憾に思っている』
しばし黙祷して見せた。
『将来を嘱望された歌姫の死だ。ファンや親御さんも去ることながら私も断腸の思いなのだよ』
温雅にして徳厚い言葉や態度は、しかし具体的な約束なり決断を果てしなく遠ざける為の防波堤―リクにはそうとしか見えなかった。
『閣下―どうしても太子党を検束・処断する事をお拒みあらせられますか。これ程大勢の人達が被害・犠牲にあって呻吟している最中にあってもまだ目を瞑るおつもりなのですか!?』
最外縁総領事は必死で訴えて見せたが、
『いつまでも、と言う訳ではない。だがもうしばらく様子を見させてくれ』
やはり名誉元帥の考えは変わる見込みも希望も無さそうだった。
『分かりました。ではこれを見てからもう一度お気持ちを尋ねましょうか』
若き共和国星民は遂にコーヒーカップの真横に手を伸ばし―あのジュラルミンケースを開いた。
すると、いきなり多数の平面ホロ画像がリクとネカイア公との間に浮かび上がり―\r
『こ、これは―』
目にした途端、老君子の顔はみるみるひきつり始めた。
『閣下―閣下の境遇、否、はっきり申せば閣下のお国の置かれた事情は心から同情しますよ?』
リクは真顔のまま片目を閉じて見せた。
『まさか御国が莫大な借金によって太子党に牛耳られていたとは―こればっかりは流石のグイッチャルディーニ議長も知りようがありますまい』
そうだ。
ネカイア公国は現時点に置いて九000兆クレジット公貨と言う莫大な債務の下、押し潰されそうになっているのだ。
顔面中のあらゆる筋肉を迷走させながら、公爵は声帯を貧乏揺すりさせて来た。
『こ、これを知ってどうするつもりかね?』
名誉元帥は自分でも知らない内にカップ毎コーヒーを落とし、執務卓下の赤絨毯は黒々と染色されてしまっていた。
リクはソファーで両膝を鷲掴みにしながら、
『閣下もご存知でしょう―あのニー=ウー伯爵公女、あなたがたと同胞の筈のマエリー嬢ですら、フーバー=エンジェルミの毒牙にかかり、身勝手な逆恨みで殺された事を。それでもなお、連中を許すとおっしゃるのですか!?』
ネカイア公は少なくとも表向きは落ち着き払った様子でコーヒーを手にして、
『彼女の事は真に遺憾に思っている』
しばし黙祷して見せた。
『将来を嘱望された歌姫の死だ。ファンや親御さんも去ることながら私も断腸の思いなのだよ』
温雅にして徳厚い言葉や態度は、しかし具体的な約束なり決断を果てしなく遠ざける為の防波堤―リクにはそうとしか見えなかった。
『閣下―どうしても太子党を検束・処断する事をお拒みあらせられますか。これ程大勢の人達が被害・犠牲にあって呻吟している最中にあってもまだ目を瞑るおつもりなのですか!?』
最外縁総領事は必死で訴えて見せたが、
『いつまでも、と言う訳ではない。だがもうしばらく様子を見させてくれ』
やはり名誉元帥の考えは変わる見込みも希望も無さそうだった。
『分かりました。ではこれを見てからもう一度お気持ちを尋ねましょうか』
若き共和国星民は遂にコーヒーカップの真横に手を伸ばし―あのジュラルミンケースを開いた。
すると、いきなり多数の平面ホロ画像がリクとネカイア公との間に浮かび上がり―\r
『こ、これは―』
目にした途端、老君子の顔はみるみるひきつり始めた。
『閣下―閣下の境遇、否、はっきり申せば閣下のお国の置かれた事情は心から同情しますよ?』
リクは真顔のまま片目を閉じて見せた。
『まさか御国が莫大な借金によって太子党に牛耳られていたとは―こればっかりは流石のグイッチャルディーニ議長も知りようがありますまい』
そうだ。
ネカイア公国は現時点に置いて九000兆クレジット公貨と言う莫大な債務の下、押し潰されそうになっているのだ。
顔面中のあらゆる筋肉を迷走させながら、公爵は声帯を貧乏揺すりさせて来た。
『こ、これを知ってどうするつもりかね?』
名誉元帥は自分でも知らない内にカップ毎コーヒーを落とし、執務卓下の赤絨毯は黒々と染色されてしまっていた。
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