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僕とご主人様の物語5

[389]  矢口 沙緒  2010-04-10投稿



今日は雨です。
僕のご主人様はとっても頭がいいので、雨が降っても濡れない橋の下にお家を作ったんです。
でも、雨だからお散歩は中止です。
そんな時ご主人様は、僕に歌を歌ってくれる事もあります。
今日はアメリカ生まれで、セルロイドという素材で出来ているお人形さんの歌を歌ってくれました。
僕も一緒に歌いたいけど、僕はワンとしか言えません。
だからご主人様の歌に合わせて尻尾を振るんです。
雨は夜まで降り続いて、そのためお仕事もお休みです。
「今日は一日中雨が降って、お散歩もお仕事もお休みで残念ね。
でも、寝る前のお話だけは、今夜もお休みしませんよ」
わぁ、よかった!
ねぇねぇ、早く聞かせて。
「そうねぇ、今夜はなんのお話をしようかしらねぇ…
そういえば、今日お人形さんの歌を歌ったから、臆病なビスクドールのお話でもしましょうか。
ビスクドールっていうのはね、白磁器という、真っ白な陶器で出来ているお人形さんなのよ。
でも、陶器で出来ているから、とっても壊れやすいの。
じゃ、始めますよ。
昔々、あるお屋敷の子供部屋に、とっても臆病な小さなビスクドールがおりました…



第二話
臆病なビスクドールの
      物語


彼女がこの世にビスクドールとして生を受けたのは、120年以上前のフランスの人形工房でした。
彼女の身長は20センチ程しかなく、ビスクドールとしてはとても小さいほうでした。
目はくりくりとブルーで、真っ白い肌に紅い唇がとても印象的な、可愛いお人形さんです。
中世ヨーロッパ風のとても華やかな、それでいてどこかシックな、ひらひらとした紫色と白のドレスを身にまとっています。
彼女は海を渡り、世界中の何人もの人やお店の間を往き来しました。
そして2年程前にこのお屋敷に引き取られ、子供部屋の天井に近い高い棚の上に、空中に足を投げ出すような格好の座った状態で飾られました。
それからの彼女は、毎日怯えていました。
床までの高さは3メートル以上もあり、しかもとても不安定な格好で座らせられていたので、いつ落ちるかと心配でしょうがなかったのです。
彼女はぬいぐるみなどとは違い陶器で作られているので、もしここから落ちれば粉々に砕け散って、死んでしまいます。
そしてもうひとつ、彼女を恐れさせる存在がありました。
それはペルシャ猫のビュービューです。

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