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ベースボール・ラプソディ No.29

[540]  水無月密  2010-04-14投稿
「う〜ん……」
 地区予選の初戦を翌日に控え、哲哉はトーナメント表を見つめて愁眉をつくっていた。

「なんだぁ、またトーナメント表と睨めっこしてんのか?
 いい加減、気持ちを切り替えろってぇの」
 練習前のアップを済ませた八雲は、そういってベンチで考え込む哲哉の横に腰掛けた。

「そういわれてもなぁ、ここまでくじ運が悪いと、我が事ながらため息しかでないよ」
 哲哉自らくじをひいたその組み合わせは、初戦の相手にこそ恵まれたが、二回戦ではシード校の古豪浦賀工業との対戦がまっていた。

 そして、三回戦での相手はおそらく成覧であり、その早過ぎる対戦が哲哉の頭痛の種になっていた。


 橘華ナインは公式戦の経験値が極端に低く、成覧との対戦は遅ければ遅い程いいと、哲哉は考えていた。
 チームが球場の雰囲気に馴れないまま成覧との試合になれば、緊張から実力の半分もだせずに今年の夏は終わってしまうだろうから。

 さらに哲哉には、その他にも苦慮すべき事柄があった。


「今回の組み合わせは、余り良くなかったんですか?」
 年枯れた穏やかな声が、哲哉に問い掛けた。
「ええ、よりによって本命と対抗馬に立て続けであたるなんて……
 うちにはピッチャーが一人しかいないことを考えると、八雲への負担が大き過ぎます」
 トーナメント表から視線を離さず、きかれるままに答える哲哉。

「なんだ、またオレの肩の心配してたのか?
 てっつぁんは苦労症だなぁ」
「お前が無頓着過ぎるんだよ、少しは肩を大事に……」
 はっとする哲哉と八雲は、ようやく第三者に話し掛けられたことに気付き、顔を突き合わせて一斉に振り返った。

「…大原先生っ、何時からそこに?」
 まったく気配に気付いていなかった哲哉は、ベンチの隅に座る小柄な初老の人物に問い掛ける。
 その横で、八雲は声にならない言葉をはっしていた。

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