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アオイ、そら。9

[668]  沖田 穂波  2010-05-05投稿

3-3 ゆきにい

『朱行様,お時間です。』
多哀家の女中が襖を叩いた。

『ああ,今行くよ。』

ゆきにいはゆっくりと立ち上がった。

『時間て‥?』

私は,誘っておいてどこかに行くなど失礼な!!
とか思っていた。
ゆきにいはひらひらと手を振った。

『すぐに戻りますよ,薬をね,飲むだけですから。』

色白だから気付かなかったが,確かに顔色が良くない。

風邪かもしれない。

と,私は予想した。

五分程でゆきにいは戻って来た。

『すみません,これだけは絶対に欠かせなくて。』

『いいっすよ。風邪ですか?』

この時,
こんなに軽い気持ちで尋ねてしまった自分は本当に馬鹿だ。

忘れていたんだ。
ゆきにいも,天帝の子孫であると言うことを。

『風邪というか‥,私もそろそろですからね。』

『そろそろって?』

『20歳。あと2ヶ月後には私,あの世ですよ。』

つまり呪いの死が近いのだ。

ふざけて合掌なんかするゆきにいが信じられない。

『嫌だなぁ,そんなに悲しい顔しないで下さいよ。私も呪いを知っていたんです。5つの頃,女中が噂話しているのを盗み聞きして。だから死への恐怖はだいぶ前に克服したんですよ。』

こうも潔く死を受け止めている人は珍しいのではないだろうか。

『生きたいと思わないんですか?』

私はゆきにいの手元に目を落とした。痩せこけている。

『はい。私も,未来に夢や希望を持たないように心掛けてましたからね。』

あまりにもゆきにいが明るく答えるから,
私はまるで自分の事のように泣けてきてしまった。

『未練はないんですか?』

『未練‥。』

何かを考える様に俯いたゆきにいは,やっぱりどこか悲しそうだった。

『恥ずかしながら,未練なら,あります。』

『当然ですよ!』

だって,
ゆきにいはまだ20歳だし,人にはやっぱり欲があるから。

しかしその欲すらも,ゆきにいには愛があった。


〇〇続く〇〇

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