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チンゲンサイ。<42>

[426]  麻呂  2010-06-08投稿

意外にも本橋は、

ユキエの言葉を受けても、表情一つ変えずに、あっさりと要求に応じた。



『山田さん。

生徒達に何をおっしゃるおつもりなのかは分かりませんが、

親が前へ出る事によって、必ずしも解決に結び付くとは限りませんし、

もしも、うちのクラスにイジメがあるとしたら、

現状の悪化さえ考えられますよ。

本当に、それでいいとおっしゃるのなら、どうぞお話しください。』



俺達の意志は固かった――



本橋の後ろに付き、俺とユキエは、ユウのクラスへ向かうべく、職員室を後にした。


廊下を歩く俺達に、生徒達は、それほど興味を示さなかったが、


本橋が、ひとたび教室のドアを開けると、


生徒達の視線は、一気に俺とユキエに集中した。



『起立!!』



ほぼ同時に、学級委員らしい女子生徒の声が響き渡る。



『ほっほっほ。

みなさん、おはようございます。

今日のホームルームが、いつもと少し違うのは、

お客様がいらっしゃる事ですね。

はい。いつもどおりに始めますよ。』



しかし、この本橋という教師は、いかにもクセのありそうな男だ。


見た目は、生徒にナメられているダメ教師といった感じなのだが、


どうも、そうでもなさそうだ。


その本橋の話している最中に感じた事だが、


このクラスの雰囲気は異様だった。


生徒達の目は、まるで腐った魚の様に見えたのだ。


全く若さと活気が感じられないのだ。


社会問題化した学級崩壊という言葉が流行った時代は、


すでに“一昔前”となってしまったのか。


いや、おかしいのは多分、このクラスだけだ。



そう思えたのは何故か――



みな、口をつぐんで、大人しく席に着いているのだが、


それは、優秀な生徒達の揃ったクラスだからというよりは、

まるで、何者かに操られている様に、


言葉を発する事を禁じられているかの様に見えたのだ。



一体ソレは何だ――


本橋の話が終わりに近付くにつれ、


俺は、話すタイミングが、いつユキエに回ってくるかと、ハラハラしていた。

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