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フィンブルの冬

[430]  ヤルンヴィドの番犬  2010-06-12投稿


突き刺すような風。

剣のような雪。

狼のように荒れ狂う命。




フィンブルの冬は
黄昏の前触れ。


決して暖かくなる事の
ない、永遠に似た冬。


風の冬、剣の冬、狼の冬からなるそれは、

理念も

理性も

理想も

理解も

冷たく奪い去っていく。

心に温もりを失った
命たちが、
理由もなく殺し合い、

親子も、
兄弟姉妹も、
師と弟子も、
恋人同士も、
夫婦も、

全ての関係が崩壊する。
殺し合う。


三度続いて訪れる
絶望の冬は、

一体どこへ来るのか。

この大地?

心の中?

或いはそのどちらも?





……否……

もう訪れているのでは?





見よ。

親が子を殺し、
子が親を殺し、

兄弟姉妹が憎み合い、

欲望で愛を殺している
現在を。

絶望で希望を葬っている
現在を。



例え太陽が、じりじりと
大地を焦がそうとも、

大気の温度がどれだけ
上がろうとも、

冷たい絶望は、沈鬱に
世界に拡がっている。







誰も止められはしない。






既に光は失われ、

今日もどこかで
むせび泣く母親。

光を消した存在を
血祭りにしろと沸き立つ
者ども。

血眼で罪を
なすりつけ合う人々。









空を見上げ、不安に
駆られる。


こんなに暑くても、

雪が降るのではないか
と。

夏は来ないのではないか
と。










フィンブルの冬が、
訪れている事を、
確信してしまうのでは
ないかと。




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