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石川さん

[652]  mille(ミル)  2010-06-14投稿
桜はね、頑張って咲いているわけではないんですよ。石川さんは、そう言っていた。その頃の私は病んでいて頑張って頑張って仕事をした結果、どうやらうつ状態になったらしい。家に閉じ篭りがちになり、いっそこのまま死んでしまえばいいのに、とまで考えるようになっていた。
石川さんは近所に住むおじいさんでひとり暮らしをしている。3年前に奥様を亡くされている。石川さんの趣味は散歩で、彼はとてもゆっくりと歩く。べつに足が悪いわけではなく、彼は見ているのだ。季節の移ろいを。とてもとても用心深く。シロツメクサの花が咲いていましたよ。そう言って私に季節を知らせ外の世界のことを教えてくれる。ある時石川さんが私に言った。一緒に風を感じてみませんか?
久々に私は軽く化粧を済ませコットンのワンピースを着て石川さんが来るのを待った。石川さんは少し遅れて到着し、手には4分の1にカットされたスイカが乗っていた。スイカ!!もうそんな季節になったのかと私は驚いた。石川さんに深々とお礼を言い、私達は外へ出た。石川さんは、これはヒメソバ。これはオニユリで、これはダンデライオンと言うんですよと教えてくれた。ダンデライオンをよくみると、それはたんぽぽで英語ではそういうんですよと洒落た事を言ってくれる。風が、風が本当に気持ちよかった。
花はね、皆時期が来ればちゃんと咲くものなんです。石川さんは言った。だからあなたも大丈夫ですよ。そう言って石川さんは楽しそうにまた歩き出した。
私がまた歩き出す時は近いかも知れないなと、私は心の中でつぶやいた。

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