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欲望という名のゲーム?2

[431]  矢口 沙緒  2010-06-20投稿



隣に座っている女性は三十二、三というところか。
美人というのとは違うが、しかしそれなりに魅力的な容貌をしている。
どちらかと言えば愛嬌のある顔と言ったほうが適切だろう。
普段は明るくて多分よく笑う女だと思われるが、今は青い顔をしてうつ向いている。

この女性、雷音寺喜久雄の妻友子は乗り物に極端に弱く、かつてこれほどの遠出は経験がなかった。

そのふたつ後ろに、かなり派手な身なりの女性が座っている。
大きくウェーブのかかった茶色い髪は肩よりもやや長く、服は原色に近い赤のツーピース、胸には露骨なくらい大きなブローチ、そしてイヤリングも指輪も、人目を引くためだけに付けられている。
歳は三十前後と思われるが、はっきりとは断定しがたい。
気の強そうなところはあるがかなりの美人で、濃いめの化粧がその顔を際立たせている。

少なくとも一般的な主婦とは程遠い存在である。

この女性、雷音寺深雪はうんざりした顔をして煙草を吸っている。

そして最後部の座席には、まだ若い小柄で質素な女性が座っていた。
歳は二十そこそこ、その様子から多分大学生だと思われる。
白地に薄いピンクのストライプの入ったシャツ、その上に軽い感じの白のカーディガン、そしてモスグリーンのスカート。
彼女も美人ではあるが、どちらかというと理知的な顔立ちといったほうがいいだろう。
だが、決して冷たい印象は受けない。
いくらか垂れ下がり気味の大きな瞳が、全体の印象を優しくしているからだ。
現代女性には珍しく、しとやかな雰囲気も持っている。

この女性、雷音寺孝子は何も見えるはずのない窓の外をぼんやりと見ていた。

「まだ着かないんですか?」
妻を気遣っていた雷音寺喜久雄が、たまりかねて大声を上げた。
「妻の気分が悪いんだ。
その辺に止めてくれないか!」
「いえ、もうそこですから…」
運転手が言い終わらないうちに道が突然終わり、広大な平地に出た。
薄暗かったマイクロバスの中に強い太陽の光がいきなり注ぎ、乗客は一様に目を瞬かせた。

永遠とも思われた長い樹木のトンネルは終わり、今、目前に目的の屋敷はその全貌を表した。

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