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欲望という名のゲーム?4

[367]  矢口 沙緒  2010-06-21投稿



「おい、一週間もここに居ろっていうのか!
俺は忙しいんだ。
まったくどういうつもりなんだ」
明彦が吐き捨てるように言う。
「そんな事言ったって、バスはもう行っちゃったわよ。
それともなぁに、あの道を歩いて帰るって言うの?
冗談じゃないわよ!」
深雪がイライラした調子で言い、口に煙草をくわえた。
「一週間はここから帰れないんでしょうか?」
誰に言うともなく、喜久雄は言った。
そばにいる友子も不安を隠せない様子だ。

孝子は一人離れた位置にいて、珍しそうに洋館を見上げていた。
三階建てのかなり大きな屋敷で、窓の数から見ても、相当数の部屋がありそうだった。
遠目には白く美しく見えたが、こうして近くで見てみると、あちこちペンキが剥がれ落ちていて、想像以上に年代物だと孝子は思った。
しかし、年代物であるがゆえにその作りはがっしりとしていて、重さとそして風格を感じさせた。
外見だけが美しく、中身の軽いペンションなどとは比べ物にならない重厚で荘厳な構え、傷だらけになりながら、幾つもの嵐や暴風雨を乗り越えてきた強い自信をこの屋敷は持っていた。
多分、父はこの屋敷のような人だったのだろう。
孝子は思った。
父の事は話には聞いたことがある。
写真も見た事がある。
しかし、彼女の記憶の中に父は存在しなかった。
彼女が物心ついた時、両親はすでにこの世を去っていた。
だから孝子に父や母の記憶はなく、なんの思い出もなかった。
だがこの屋敷の前に立った時、彼女は父の面影を感じた。
不思議な事だが、なんの記憶もない父の暖かさに触れたような気がした。
「この家、好きだわ」
孝子は独り言のように言った。
心地よい風が、髪をさらさらと動かした。
それと同時に、屋根の上のほうでカラカラと音がした。
孝子は音の正体を知りたくて、屋敷から少し離れ、屋根を見上げた。
風見鶏だった。
金属板の風見鶏が、屋根の上でその姿を誇るように立っている。
その金属製の鳥の少し下の部分に、風を受ける風車のような物が付いていて、それがカラカラと音をたてて回っていた。



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