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かけがえのないもの 1

[532]  デフレーター  2010-06-22投稿
普段当たり前と思っていること

何気なく過ごしてきた毎日

それはある日突然

かけがえのないものになる

あまりに近すぎて気付かなかった

あまりに単調すぎて見落としていた

そんな幸せ−−−



「ただいまー」

もちろん誰の返事もない。

ふぅ…と大きくため息をついて

隼人は部屋の明かりをつけた。

高校を卒業し

家族の元を離れて1年

一人暮らしにもようやく慣れて来た。

しかしながら隼人は

一人暮らしをすると決めた時から

ある不安を拭い去れずにいた−−−−


カバンを部屋の隅にほうり出し

シャワーを浴びて部屋着に着替え

録画してあったバラエティー番組を見はじめる。

時刻は夜8時を回っていた。

その時

ピンポーン

インターホンが鳴った。

「はい?」

隼人は部屋着のまま玄関に向かった。

「お兄ちゃん」

「瑠奈!?」

隼人はドアの向こうの声にあからさまに驚いた。

瑠奈−隼人の3歳下の妹。今年で高校1年生。

小さい頃からいわゆる「お兄ちゃん子」で

いつも隼人の側を離れたがらなかった。

隼人もまたそんな瑠奈に

目一杯の愛情を注いできた。

そして彼女こそが隼人の不安材料でもあった。


「来ちゃった。開けてよー」

隼人がドアを開けると瑠奈は心から嬉しそうな笑顔を浮かべた。

「お前来るときはちゃんと連絡しろって言っただろ…」

「ごめーん…でも…何か急に会いたくなっちゃって…みたいな」

瑠奈はまた照れ臭そうに笑う。

瑠奈が隼人の家に来たのは初めてではない。むしろ週に1度、

少なくとも月に1度は必ず隼人を訪ねてきていた。

隼人はそんな瑠奈に対し、もし来るときは必ず連絡するよう言い聞かせた。

別に見られて困るものがあるわけではなかったが

隼人は瑠奈が来た時くらいはきちんともてなしたいと思っていた。

瑠奈もそれまでは隼人の言い付けを守り、来る前には隼人に連絡をしていた。

なのに今日は突然、連絡もなくやってきた。

一体何があったんだろう?

隼人はとりあえず瑠奈を部屋にあげることにした。



続く

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