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欲望という名のゲーム?16

[362]  矢口 沙緒  2010-06-26投稿



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「やぁ、諸君。
とりあえず久し振りと言っておこう」
テレビの中の雅則が、屈託のない笑顔で言った。
あの黒い金属の笑顔と同じだった。
「雅則兄さん!」
孝子が驚きのあまり、思わず声を上げた。
それは不思議な映像であった。
テーブルを挟んだ向かい側の席に、まるで雅則が本当に座っているような錯覚を起こさせた。
テーブルの上に置かれた大画面のブラウン管の中に、現実のテーブルを延長した映像が見事に映っている。
その虚像のテーブルの端に雅則が座っている。
現実と虚像との奇妙な融合体と化したテーブルは、五人の観客を不思議な錯覚に陥れる事に成功したのだ。
雅則の前には、一本のワインとワイングラスが置いてあった。
「まずは再会の乾杯といきたいね」
テレビの中の彼がそう言うと、食堂の奥のドアが開いて、牧野がワインとワイングラスを五人の前に運んできた。
そしてワインを注ぐ。
それは雅則の前に置かれたボトルと全く同じワインだった。
画面の中では、雅則が自分でワインを注いでいた。
紅色のワインを中程まで満たしたワイングラスを、目より少し上の高さまで上げて、
「では乾杯!
再会と、そして諸君達の健康を祝して。
この際、私の健康は除外するとしよう」
彼は一気に飲み干す。
その後、少し感心したようにワインのラベルを見ていた。
「うむ、今年のヌーボーは、なかなかいい出来だ」
それから再び正面を向く。
「そうか、孝子はアルコールが弱かったね。
では好物のアイスクリームでも用意させよう。
そのほうがいいだろう」
まるでタイミングをはかったように、牧野が孝子の前にブルーベリー・ソースのかかったアイスクリームを持ってきた。
「おい!これはなんの猿芝居だ!」
明彦が鹿島にくってかかった。
鹿島は人差し指を唇にあて、静かにというジェスチャーをした。
画面の中の雅則が、またワインをグラスに注いだ。
そのグラスを持ったまま話を続けた。

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