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欲望という名のゲーム?36

[411]  矢口 沙緒  2010-07-04投稿



「兄は何て言ってた?」
「単なる遊びだと。
それ以上は、何もおっしゃいませんでした」
「ふぅん、
何も言わなかったの…」
深雪はしばらく考え込んでいたが、煙草を灰皿に押し付けると、鹿島を見上げた。
「ねぇ、鹿島さん。
こっちに座らない?」
声の調子が、さっきとはだいぶ違う。
女性の武器のひとつである、いくらか鼻に掛かった甘い声。
そして、甘い物ほど体には悪いのだ。
「私はここで結構です」
鹿島は毅然とした態度で言った。
その答の意味を、深雪は理解したはずだった。
しかし、簡単には引き下がらない。
「ねぇ、そんな怖い顔しないで…
あたしに協力してよ。
あなたの知っている事を、全部教えてよ。
兄さんから、何か聞いてるんでしょ?
もし協力してくれたら、あたし…」
「職業病ですね」
「なんですって!」
「あなたは六本木の高級クラブで、ママをしていますね。
ただし、雇われママだ」
「それがどうかしたの!」
深雪の言葉には、すでに愛想の欠片もない。
「ここはあなたの仕事場ではないし、私も客じゃない。
誘惑ごっこは、お店に帰ってからなさるといい」
「何よ、その言いかた!
ずいぶんと恥をかかせてくれるじゃない!」
「あなたはお金のためなら、何でもなさるのですか?」
「ふん!
はした金だったら、手も握らせないわよ。
でも二百八十億よ!
二百八十億のためなら、魂だって売るわよ!
それがいけないの?」
「私は何も知りませんし、誰とも協力しません。
私の立場は、このゲームの審判員ですよ」
「なにがゲームよ、こんなの!」
深雪は吐き捨てるように言った。
「ちょっと!
ボーっとしてないで、早くビデオテープを出したらどうなの!」
鹿島が二本のビデオテープを手渡すと、深雪はさっさと部屋を出て行った。
その際、ドアを叩きつけるように閉めるのを、決して忘れなかった。
ドアの内側の金属製の笑い顔が、左右に大きく揺れた。

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