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ベースボール・ラプソディ No.40

[590]  水無月密  2010-07-07投稿
 五回裏の攻撃は遠山、哲哉と凡打でたおれ、ランナーなしで大澤が打席にたつ。

 身構える大澤は、前打席までと雰囲気が違っていた。
 今までの試合では、自分が打たなければという気負いと、勝負をしてくれない相手への苛立ち、更にはホームランを期待する周りのプレッシャーなど、負の要因だけが彼を支配していた。

 だが、これからは違う。
 自分が敬遠されても、後には八雲いる。
 さらには鉄壁の守りをほこる仲間達が、チームを支えてくれるのである。

 それを全身で感じ取った大澤は、純粋に野球を楽しいと思えるようになっていた。
 その心境の変化が、相手を貫くように攻撃的だった彼の気を、穏やかな気へと変えていた。

 そして、それが彼の才能をさらに開花させていく。


 初球を見送り、二球目を打ちにいった大澤。
 外角低めの球を強引にライト方向へ弾き返したのは、いかにも彼らしかった。

 大澤がはなつ打球には、異常な速さがある。
 それを目で追うことに必至な観客達が歓声をあげたのは、打球がライトスタンドに飛び込んだ後の事だった。


 初回と同様に淡々と塁をまわる大澤。
 この追加点を誰よりも喜んだのは哲哉だった。

 哲哉は七点目を欲していた。
 七回終了までに七点差をつければコールドゲームが成立する。
 そうなれば、一人で投げぬかねばない八雲への負担が、2イニング分軽減するのである。


 大澤は哲哉の心中を察していた。
 彼はその上でホームランを狙い、そして実行したのである。

 もっとも大澤自身、そう上手く事がはこぶとは思ってはいなかったようで、駄目ならば次の打席で頑張ればいいぐらいの考えていた。
 その考え方が彼をプレッシャーから遠ざけ、最高の状態で打席にたたせていた。


 塁を回り終えた大澤を、八雲は少し迷惑そうに出迎えていた。
「まったく、余計なことしてくれるなぁ。
 七点差なんかつけたら、試合が七回で終わっちまうじゃないスか」
 哲哉の考えとは裏腹に、八雲はこの仲間達と1イニングでも多く野球がしたい考えていた。

「ヒットエンドランは知らなくても、コールドゲームは知ってるんだな」
「それぐらい知ってるさ」
 そういって打席に入る八雲。
 大澤は、妙な男だと鼻で笑っていた。

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