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欲望という名のゲーム?45

[386]  矢口 沙緒  2010-07-08投稿



    4

コンコン、と孝子の部屋をノックする音がした。
すでに夜も十時を回っている。
「どうぞ」
彼女が応えると、鹿島が入ってきた。
「夜分遅くに失礼します」
「大丈夫よ。
まだ寝るには早いから」
ソファーに座り、テーブルの上のチェス盤とにらめっこをしていた孝子は、鹿島のほうを振り向いて答えた。
「今夜お見せしたテープの、ダビングテープをお持ちしました。
それと、一言お礼が言いたくて…」
「お礼?」
「はい、食堂での騒ぎを収拾してくださったお礼です。
私もどうしようかと、困り果てていましたものですから」
「たまたまうまく収まったのよ。
でもよかったわね。
もう少しで大喧嘩になるところだったから」
「明彦様は、もうちょっとで私に殴りかかるところでした」
鹿島が怯えた表情をしたので、孝子はケラケラと笑った。
この男、身体は大きいが暴力沙汰にはとんと弱いらしい。
「こちらに座っても構いませんか?」
「どうぞ、遠慮なさらずに」
鹿島が孝子の向かいのソファーに腰を下ろす。
「ほう、チェスですね」
「あっ、これ?
これ三階のチェスの部屋から持って来ちゃったの。
コンピューターチェスよ」
「孝子様が優勢ですね」
「あら、チェスを知ってるの?」
「はい。
雅則様のお相手もしましたよ。
ただし、勝った事はありませんが…
それよりも、ひとつお聞きしてよろしいですか?」
「なぁに?」
「孝子様は雅則様と、お会いした事があるのですか?
いえ、最初の夜のビデオを見た時に、そう感じたものですから…」
「あるわよ、一度だけ。
…あれは半年以上前になるかな。
雅則兄さんがね、私の大学の寮に突然訪ねてきたの。
手にチェスのセットとチェス盤を持ってね。
『近くまで来たから、顔を見に来たよ』
ですって。
私、びっくりしちゃって。
だって今まで一度だって会った事がないんですもの。
最初は兄さんっていうのも疑ったくらいよ。
頭のおかしな人が、飛び込んできたのかと思った」
鹿島が笑った。

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