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携帯小説家・Dの苦悩

[569]  デフレーター  2010-07-10投稿
浮かばない
全くもって浮かばない
考えても考えても
Dにはアイデアさえ浮かばなかった。
Dはこれまでいくつかの作品を投稿してきた携帯小説家。
そのジャンルは幅広く
感動ものの長編から
ドタバタ短編コメディ
ひいてはホラーに至るまで
本当に広範囲に及んでいる。
どの作品も
アマチュアながら中々よく出来ている。
Dはそう自負していた。
調子がいいときは次々とアイデアが浮かぶ。
設定から結末、登場人物の台詞や感情描写。
全てが頭の中に鮮明に投影され、
Dはそれを液晶に打ち込む。
細かい所に修正を加え、投稿する。
そうしてDは、数々の名作を生み出してきたのだ。
が…
この日は全くアイデアが浮かばなかった。
とにかくいい作品を書こうと携帯に向かうのだが、
なかなかいいアイデアが思い付かない。
Dは苦悩していた。
「小説は3拍子だ…主題・結末・軸…一つでもおろそかになったとき、それは小説ではなくなる…考えろ、考えるんだ…」
Dのやり方は、下書き、推敲、清書を全て画面上でやるものだった。
さっきから1時間、打っては削除を繰り返している。
いい作品が思い浮かび、それをいざ投稿しようとすると、
物凄い長編になることに気付く。
登場人物は50人を超える。
Dはあまりに長い長編は書かないと決めている。
話しの軸が途中でぶれてしまい、当初想定していた結末に向かわせることが出来なくなるからである。
「長くても25話まで…それ以上はハイリスクだ…」
ぶつぶつと独自の理論をつぶやきながら、Dは画面の前で苦悩する。
「だめだ。さっぱり浮かばない。
まさか、今までの作品でネタ切れ…?
いや、そんなはずはない。
考えろ…小説の題材は意外と近くに転がっているものだ…
最近の体験から小説のヒントになりそうなものは…」
携帯を握りしめたままDは固まった。
考えること40分。
本当に、まるでアイデアが浮かばない。
いつしかDは
携帯を握りしめたまま
眠ってしまっていた。
その時
「お邪魔しまーす」
誰かがDの部屋のドアを開け、中に入ってきた。



続く

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