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欲望という名のゲーム?48

[402]  矢口 沙緒  2010-07-11投稿



孝子が落ち込み気味だったので、鹿島が話しを変える。
「そうだ、さっきお話に出た『ビトゥイン・チェス』ですか?
あれをひとつやってみませんか?」
「あれを?
いいわよ。
じゃ、この本を衝立にして、経験者の私が黒で、あなたが白ね」
「白という事は、私が先手というわけですね」
「雅則兄さんが死んじゃったから、このゲームを知っているのは、世界中で私とあなたの二人だけ。
つまりこれは『ビトゥイン・チェス』の世界選手権という事になるわね」
「ははは、孝子様は面白い発想をなさいますね。
はい、並べ終わりました。
…では、まずこのルークをここへ」
「私はナイトをここ」
「ビショップをここに」
「クイーンを、そのビショップの隣に」
「えーと、そのクイーンを挟める駒がないか…
じゃ、これをここへ」
鹿島が長考しながら打つのに対し、孝子は瞬時に次の手を打つ。
それを何度か繰り返した。
「よし!
このルークをここだ。
これで孝子様のナイトとクイーンを同時に取った」
鹿島は盤上の黒のナイトとクイーンを摘まみ取った。
「そして、私は鹿島さんのキングを取る」
孝子はそう言って、もうひとつのナイトを動かした。
「なるほど。
これはやられましたな。
もう一回どうですか?」
「何度でも」
二人は再びゲームを始める。
しばらく打ち合ったあと、孝子が言った。
「このルークをあなたのキングの横に…」
「おっ、これは危ない。
ではキングが逃げるとしますか…
あっ、キングの逃げ道がない。
…ゲームセットですね」
「このゲームの難しい所は、ほかの駒に比べてキングの動きが鈍いことなの。
だから、相手の駒を取るよりも、常にキングの逃げ道に気を配っておかなくてはいけない事よ。
一番大事なのは、キングの逃げ道よ。
どう、もう一回やる?」
「やりますとも!
世界選手権に恥じない名勝負を残さなくては」
そう言って駒を並べながら、鹿島が孝子に聞いた。
「ところで少し気になることがあったのですが…
さっきこちらに来る時に見たのですが、喜久雄様がご自分の部屋の前に、ずっと立っていらっしゃるんです。
あれは何なのでしょうか?」
「きっと、みんなを見張ってるのね。
夜中にこっそり抜け出して、宝探しをする者がいないかを…」

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