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子供のセカイ。183

[398]  アンヌ  2010-07-12投稿
「……さぁ、行ってこい!」
ルキは王子の手から猫の紐をはたき落とすと、ジーナと王子の背中を強く押した。彼からすればちょっと力を込めた程度にすぎなかったが、二人にはすごい衝撃だった。二人の体は前に吹っ飛び、あっという間に青く揺らめく扉の内側へと吸い込まれた。猫はニャオン、と一声鳴くと、主人である王子を追って自ら扉の中に飛び込んだ。
彼らの姿が消えた途端、ユジユとサクは取っ手を手放し、ドシン、という重音と共に扉が閉まった。青い光の筋がぷつんと途絶える。二人の額には玉のような汗が浮かび、いかに治安部隊の隊員の力をもってしてもこの扉が重いのかを物語っていた。
ひとまずの役目を終え、後ろで騒ぎ始めた青年達の仲間には加わらず、ルキは目を細めて扉を睨んでいた。
(ハント。すべてはお前の処遇次第だ。)
今送り出した奴らの立ち位置も、治安部隊の命運も。
ルキは空の拳を握り締め、ただ静かに立ち尽くした。


「……ここは、何だ?」
背後で扉が閉まるのと同時に起き上がったジーナは、同じように青色の床に倒れ伏している王子の脇に手を差し込んで、立ち上がるのを助けてやった。
巨大な猫は、情けないほど困惑していて、互いを支え合うようにして立っている二人の周りをウロウロしている。
そこは青の箱庭だった。あれほど眩しく輝いていた光も、今はそれほどには感じない。床、壁、天井、すべてがまだらな青色に塗り尽くされていて、境は曖昧だった。時折思い出したように青い壁の一部がきらきらと光ったが、気づいた時にはすっと儚く消えてしまう。
「……不思議な空間だね。」
「ああ。こんな場所を見るのは初めてだ。」
ジーナは眉を寄せたまま、辺りをじっくりと見渡した。ふと、下からの視線に気づいて目線を下げると、王子の金色の瞳が、気遣わし気な様子でこちらを見上げていた。
「ジーナの知り合いも、強制労働施設にいるんだよね?てことは、毎日この場所に来て、同じようなことをやらされているのかな。」
「……さあ、な。どちらにせよ、私達も今はここの囚人と同じだ。さっさと『労働』とやらを終わらせて、外へ戻ろう。」
ジーナは素知らぬ風を装って呟くと、ルキに渡された鉄の箱を、床からひょいっと持ち上げた。王子に合図して、率先して道の先を歩いていく。彼と猫も後ろから慌てたようについて来た。

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