携帯小説!(スマートフォン版)

トップページ >> ノンジャンル >> 懲役3年 6

懲役3年 6

[464]  デフレーター  2010-07-22投稿
けたたましいサイレンの音で起こされた。
「ん…もう朝か…」
固いベッドで寝ていたおかげで体の節々が痛い。
何とか起き上がると、高嶋が階段を降りてくるところだった。
「おはようございます。」
「おはようございます。」
囚人達はもう立ち上がって鉄格子の前で整列している。
「本日は吉原さんが刑期を終えられます。皆さんでお見送りしましょう。」
どうやら今日出所する人がいるらしい。
「では吉原さん、こちらへ。」
「はい。」
返事をしたのは、昨夜一人だけ寝ていなかったあの囚人だ。
高嶋と吉原の後に続くように囚人が列をなして歩いていく。
俺はとりあえず列に混じって階段を上った。

高い天井が吹き抜けになっている玄関前の広間で、囚人達の足が止まった。
吉原は玄関まで歩いていき、こちらを振り返った。
「今まで、本当にお世話になりました。」
高嶋と囚人達に向かって深々と礼をする。
「この3年間で、あなたの心は浄化されましたか。」
「はい。非常に晴れやかな気持ちです。」
「良かった…これから先の人生、あなたは多くの壁を乗り越えなければならないでしょう。しかし決して逃げてはいけません。ここでの経験を活かし、充実した人生を送ってください。」
高嶋は吉原に語りかけた。
吉原は泣いているのか、肩を震わせながら頷いていた。
「ありがとうございます…本当に…」
「頑張ってください!」
「もう犯罪に手を染めてはいけませんよ!」
囚人達が口々に激励の言葉を送る。
「ありがとう…では…」
吉原はこちらに背を向け、片手をあげながら扉を開き、出て行った。
囚人達はあるいは微笑みながら、あるいは泣きながら、吉原を見送った。
俺は一部始終を半ば呆れながら見ていた。
たかだか出所したくらいで何を感傷的になってるのだろうか。
玄関のドアが閉まると、高嶋はこちらを向いた。
「では、朝食にしましょう。…池田さん。」
「…?」
「朝食の席で、改めて皆に池田さんをご紹介致します。」
「あ…ああ…」
突然の事に俺は戸惑った。
紹介だなんて…別に来たくて来たわけじゃないのに。
「では、行きましょう。」
食堂へ向かう列の中で、俺は少し緊張していた。


続く

感想

感想はありません。

「 デフレーター 」の携帯小説

ノンジャンルの新着携帯小説

利用規約 - サイトマップ - 運営団体
© TagajoTown 管理人のメールアドレス