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欲望という名のゲーム?80

[452]  矢口 沙緒  2010-07-26投稿



彼女はそこに並んだ猫の絵柄のラベルのワインを、歩きながら見ていった。
どうやらそこに並んでいるのは、ラベルは多少違うが、同じ『シュバァルツェ・カッツェ』という銘柄のワインのようだ。
どのラベルにも猫が描かれてある。
きっと、この銘柄のワインのトレードマークが猫なのだ。
深雪はそれを一本づつ点検する作業を始めた。
ボトルは全部透き通ったタイプのものなので、中に何か不審物があれば、すぐに分かる。
だが、結局は何も見付からなかった。
それどころか、彼女の唯一の発見は、絶望的なものだった。
この『シュバァルツェ・カッツェ』というワインのラベルに描いてある猫の絵は、全部『黒猫』だったのだ。
最初の期待が大きかっただけに、それは彼女に決定的なダメージを与えた。

深雪が諦めて自室に戻った直後、今度は明彦が部屋から出てきた。彼はさっきまで、自分の部屋で最初の夜のテープを見ていた。
そして、一つだけ大きな見落としがあるのに気がついた。
それは、あの最初のヒントを出す場面だ。
雅則はその右手に猫を抱きかかえ、そしてこう言った。
『ヒントとは、私のこの右手の中にいるこれだ』
と…
誰もが猫にだけ気を取られていて、その右手にあったもうひとつの物を見落としていた。
雅則は確かにその時、右手にワインを満たしたワイングラスも持っていたのだ。
そうだ。
ワイングラスを持ったままの右手で、猫を抱き上げる不自然さ。
そして
『ヒントとは、私の右手にいるこの猫だ』
とは言わずに、
『私のこの右手の中にいるこれだ』
と妙な言い回しで言っていること。
これらはワインというヒントをカムフラージュしようとした結果の不自然さなのだ。
この箇所を何度も繰り返し再生する事によって、それが明確になった。
もちろんあの猫もヒントには違いない。
つまり雅則はあの時、同時に二つのヒントを出していたのだ。
『三毛猫』と『ワイン』だ。
ここで大きな疑問がある。
それは『猫』の事を堂々と言い切っていながら、なぜ『ワイン』の事をカムフラージュしようとするのか?
その答は簡単だ。
ワインのほうが猫よりも、より直接的なヒントなのだ。
これをあからさまにしてしまっては、あまりにもゲームが簡単なもになってしまうからだ。
だが、完全に隠してしまってはアンフェアだ。

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