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子供のセカイ。192

[394]  アンヌ  2010-07-31投稿
そこには執務机が一つと、書類の入った棚が二つ、それに一枚の絨毯が敷かれているのみだった。さらに言えば、壁に剣を納めるための窪みがあったが、覇王は常に剣を腰に帯びているため、一度も使われた形跡がない。
開け放たれた窓から、調度よい温度の風と日の光が入ってきていたが、ハントはそれらを何一つとして感じていなかった。
生きた心地がしない、というほど怯えているわけではない。覇王は確かに恐ろしい男だが、だからといって簡単に気圧されるほど、ハントはやわではない。
ただ、覇王の出方次第では、どのように行動するかが大幅に違ってくるため、若干緊張しているのも確かだった。
先程城に到着し、すぐに城兵に導かれて、まっすぐ執務室に連れてこられた。
そして部屋に入って覇王と顔を突き合わせた途端、剣の柄で頬を殴られたのだ。覇王の理不尽な暴力には慣れていたので平気だったが、しかし、何より今は状況が芳しくない。
『治安部隊は光の子供を取り逃がした』。ハントが城に呼び出された理由はその失態故に他ならず、そしてそのことについて、ハントは何の言い訳も思い浮かばなかった。
(違えな。問題は俺達の処遇、そのものじゃねえ。)
ルキを始め他の治安部隊の仲間の若者達は、まずハントに何かあってはと気にかけてくれているようだったが、問題はそこではない。
(昨日の夜、何が起こった?結局、夜羽部隊は光の子供達を殺しちまったのか?)
もしそうならば−−。ハントはばれない程度に拳を握り締め、沸き上がってくる絶望に耐えた。もしそうならば、どの道、この先治安部隊が取るべき道は一つしかなくなる。
ハントはじっとうなだれて、次に覇王が口を開くのを待った。
覇王は広い部屋の真ん中で立ち尽くすハントの後ろにゆっくりと回り込むと、今度は刀身の納まった剣の鞘で、ハントの剥き出しの膝裏をはらった。常人なら倒れるほどの衝撃だったが、ハントはわずかな痛みさえ感じなかった。しかし覇王の機嫌を損ねるといけないため、タイミングを合わせて膝を折り、絨毯の上に這いつくばる。
「なぜ昨日の内に、光の子供を取り逃がしたことを報告に来なかった?」
背後から問われ、言わなくてもアンタ知ってただろうが、と内心毒づきながらも、ハントは控え目な態度で答えた。
「昨日は手配書の作成でお疲れのようでしたので、本日の朝に参ろうと思いまして。」

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