携帯小説!(スマートフォン版)

トップページ >> ミステリ >> 欲望という名のゲーム?112

欲望という名のゲーム?112

[534]  矢口 沙緒  2010-08-22投稿



     4

四月ニ十ニ日
その朝、五人は無言のまま朝食を食べていた。
テレビには雅則の笑顔が映し出されている。
「このテープを諸君達が見ているという事は、宝探しが失敗に終わったという事になる。
非常に残念な結果だ」
テレビの中の雅則は、にこやかに話しているが、もう誰もそれを見てはいなかった。
五人は下を向いたまま、全くの無関心だった。
「しかし、諸君。
諸君達はこの七日間で、金銭には換えがたい何かを得たはずだ。
この世の中は、金が全てではない。
ほかの事に比べれば、金はなんとみみっちく、つまらない物なのか。
それを分かって欲しい。
もう二度と諸君達に会うことはない。
しかし、私は忘れないよ。
諸君達と過ごした、この七日間の思い出を…
では諸君。
私はこの辺で失礼しよう。
いつか諸君達が私の所に来る時には、チェスの駒とチェス盤を持ってきたまえ。
いつでも私が相手になろう。
その時を楽しみにしているよ。
…私の兄弟達よ。
私の分まで、生きる事を楽しんでくれたまえ。
では、さようなら…」
テープは終わり、そして全ても終わった。
鹿島がテープを取り出しながら言った。
「迎えのバスは、もう来ています。
ご出発は何時頃になさいますか?」
「あたしは早く帰りたいわ。
いつまでも店を放ってはおけないから」
深雪が立ち上がった。
「俺も早いほうがいい。
ここにはもう用はない」
明彦も腰を浮かせた。
「私も学校に帰ろう。
あそこが一番落ち着くわ」
孝子も立ち上がった。
「分かりました。
では、十一時にはここを出発しましょう。
私も支度がありますので、これで…」
そう言って鹿島が食堂を出た。
「みんな戻って行くんですね。
それぞれの場所に…」
喜久雄が寂しそうに言う。
「あなたは?」
「もちろん帰るさ。
住み慣れた場所にね」
喜久雄も立ち上がった。
友子がそれに続く。
「また会えると思うか?」
珍しく明彦が笑顔で言う。
「そうね。
運がよければ…」
深雪も笑顔で応える。
しかし彼等は知っていた。
もう二度と会えない事を。
それぞれが、あまりにも違う環境に身を置いているからだ。
それぞれの場所に戻り、そして今まで通りの毎日が始まる。
結局は、それが一番自然な姿なのだ。


感想

感想はありません。

「 矢口 沙緒 」の携帯小説

ミステリの新着携帯小説

利用規約 - サイトマップ - 運営団体
© TagajoTown 管理人のメールアドレス