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子供のセカイ。197

[386]  アンヌ  2010-08-22投稿
「どうして私がそうするってわかるの?大体、もし指示が間違ってたらどうするのよ。後から言ったんじゃ遅いじゃない。」
舞子は膨れっ面になり、腕組みをして顔を背ける。いかにも「怒ってます」というスタイルに、ハントは吹き出しそうになるのを懸命に堪えた。こういう所は、本当に可愛いげのある少女である。
「だが舞子、君はただお姉さんを捕まえておきたいだけだろう?あの耕太とかいう少年はまだ同じように扱うにしても、影の方は消しても何の損失にもならないはずだ。」
覇王のもっともな意見に、思わず舞子は黙った。
部屋に静寂が広がる。日の光が踊り、部屋に優しく吹き込んだ風が三人の髪を撫ぜる。
ハントはあえて何も言わなかった。舞子と覇王の間に亀裂が生じていくのが手に取るようにわかる。そして、この時点で強いのは舞子の方だ。覇王がいくら最強でも、その彼を生み出した人物に逆らえるわけがない。
「ハント。」
不意に舞子に名前を呼ばれ、「はい。」とハントは律儀に答えた。
長い黒髪の少女の顔は、曇っていた。
「その影たちは、本当に捕まえておいても何の役にも立たないの?例えば、強制労働施設での作業に使えたり、ラドラスと似た考えを持っていたり……。」
「ラドラスのような思想を持ち合わせているかどうかは、試してみなければわかりませんが、トンネルを掘る作業には充分役立ちます。」
先程覇王に進言した手前、このように言うしかなかった。
舞子は俯き、表情が見えなくなった。執務机に腰掛けた覇王は、苛々した様子で、しかしその様子を見られないように、体ごと舞子から背けて腕組みをしている。
ハントは落ち着いていた。落ち着きながら、静かに祈るような気持ちになっていた。舞子の心の中の善なる部分が、まだ残っていることを祈る。おかしな話だ。善、などといういかにも胡散臭くて頼りにならないものは、ハントがもっとも信じられないものの一つだというのに。
しかし、その「善」の部分が残っているなら、姉の仲間を消すようなことを、妹が成すはずがなかた。
「消さないで。」
結局、舞子は消え入るような声で言った。
覇王は額に手を当て、小さく溜め息をついた。完全に計算が狂ってしまった、という様子だ。そもそも、舞子がハントとの対話中に覇王の執務室を訪れた時から、彼には運が向いていなかった。

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