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流狼−時の彷徨い人−No.63

[676]  水無月密  2010-08-25投稿
 幻術使いの動きを視覚でおうことは、不可能に等しい。
 そう判断したノアは五感に頼らず、オーヴを己の間合いに張り巡らした。
 その刹那、ノアのライジング・オーヴが金色に輝き始める。

 オーヴの語源は光の玉であり、極めた者がそれに包まれることからその呼び名がついた。
 その光に包まれた今、ノアの戦闘能力は最大限に解放されたことを意味していた。


 研ぎ澄まされ、金色の輝きをましていくオーヴ。
 その中心で、巣を張り巡らした蜘蛛の如く獲物を待ち構えるノア。

 その正面へ、段蔵は無造作に姿をさらけ出した。

 それが段蔵の作り出した幻影であると判断したノアは、軽々には動かなかない。
 その彼女を取り囲むように、一体、また一体と幻影は数を増していく。


『…この男、ブロッケンを十体もだせるのか』
 厄介であった。
 ブロッケンとよばれる幻影は、密集させたオーヴに姿を投影させて作り出す。
 実体はなくとも、オーヴの哨戒網には反応するのである。
 いかにノアでも、至近距離でなければこの幻影の見極めは不可能であった。


 闇雲に動けないノアにたいし、十体の段蔵が一斉に襲い掛かる。
 その動きに合わせ、彼女は張り巡らしたオーヴを一気に剣へと集約させ、中段に構えて舞い踊るようにして振り回した。

 金色の光が輪となって放射状に広がり、周囲の木々ごと全ての敵影を切り裂いていく。

 光輪が消え、一瞬の静寂が場を支配した。
 その空間を吹き抜けた一陣の風により、雪崩をうって倒れいく木々のなかで霧散していく残像たち。

 だがその中に、実体をともなう段蔵の姿はなかった。


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