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欲望という名のゲーム?116

[582]  矢口 沙緒  2010-09-01投稿



最終章

勝利者という名の賢者

     1

夕闇がすぐそこまで迫ってきていた。
夜の闇に呑まれかかった屋敷に、一台の黒い乗用車が近づいてきた。
花畑を横切る車寄せの道の小砂利を踏み締め、それはゆっくりと屋敷の前まで来る。
薄暗がりの中で、車のライトに照らし出された屋敷が、まるでブロードウェイの劇場のように美しく浮かび上がった。
そう、彼にとってこの屋敷は、劇場だったのかもしれない。
そこで演じられたお芝居の最も重要な役を、彼は演じきった。
黒い乗用車から、鹿島の巨体がするりと降りてきた。

彼は屋敷に入り、そのまま応接室へ向かった。
シーンと静まりかえった屋敷に、彼の足音だけがコツコツと響く。
応接室にあるバーからブランデーを取り、そしてグラスに注ぐ。
そのグラスを持ったまま、そこにあるソファーにどっかりと腰を降ろした。
胸の奥から笑いが込み上げてくる。
彼はブランデーグラスを見ながら笑った。
勝利者の笑いだ。
もう、何も恐れるものはない。
彼らのゲームは終わった。
彼らは負けたのだ。
そして私は勝った!
なぁに、あせる事はない。
時間はたっぷりある。
今夜は前祝いだ。
ニ百八十億円に乾杯といこう。
彼はグラスをあおった。
勝利の美酒だ。
もう邪魔者はいない。
全てが私の手の中にある。
まったく雅則様は、上手い事を言ったものだ。
ゲームはフルイだと言った。
勝者と敗者を分けるのではなく、賢者と愚者を分けるフルイだと。
まったくその通りだ。
愚か者は去り、そして残った賢者だけが勝利をつかむのだ。
私のように…

ガチャ…
突然、応接室のドアのノブが回る音がした。
鹿島はギクリと体を震わせた。
誰もいないはずだ…
自分のほかには、もうこの屋敷には、誰もいないはずだ。
背後で確かにドアの開く気配がする。
背筋を冷たいものが走った。
いったい、何者なのか?
彼は硬直した顔を、ゆっくりと回して後ろを見た。
「やっぱり来たのね。
鹿島さん」
ドアの所に、笑顔の孝子が立っていた。


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