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欲望という名のゲーム?123

[612]  矢口 沙緒  2010-09-07投稿



「書き留める必要がないもの。
あのレモンパイが出てくる前に、私はコルクに書かれているヒントを見ているのよ。
つまり、あの時点でクイーンの位置は知っていたの。
あのレモンパイの通りに頭の中で駒を並べる。
そして、コルクで知ったクイーンの位置にクイーンを配置する。
そのプロブレムを解けばいいんでしょ。
チェス盤なんかいらないわ。
その場で解けちゃったもの。
その答を覚えておけばいいだけ」
「なるほど、チェス盤を使わない盲目チェスですね」
「あの程度のものなら、頭の中で出来ちゃうわ」
「しかしこのゲームには、多少不公平がありますよね。
孝子様はチェスをご存知ですが、ほかの皆様はご存知ないようでした。
これは大きなハンディキャップになりはしませんか?」
「その点も兄さんは、フォローしてあったわよ。
二日目のテープの中で、兄さんはわざわざ追伸としてまで、こう言ってるの。
『このゲームに必要な知識は、全てこの屋敷の中にある本に揃っている』ってね。
ここでふたつの疑問。
なぜ兄さんはわざわざ追伸とまでして、こんな事を言ったのか?
そして、なぜ図書室の本とは言わず、屋敷の中の本と言ったのか?
単なる言葉のあやかもしれない。
深い意味はないのかもしれない。
でも、ちょっと確かめてみてもいいんじゃない。
だって、この屋敷に本があるのは、たったの二ヵ所しかないんですから。
それは図書室と、三階の突き当たりにある、雅則兄さんの自室の書斎の本棚。
それでね、兄さんの書斎の本棚を見てみると、ちょっとした間違い探しがあるのよね。
それは、本棚にチェスの入門書があること。
これが図書室にあるのなら分かるけど、兄さんの自室の書斎の本棚にあるのは不自然よね。
だって兄さんは自分でチェスの本を書くくらいのチェスの専門家よ。
入門書は必要ないわ。
それで、その本を開くと、このゲームに必要な箇所に、全て赤ペンでアンダーラインが引いてあったわ。
つまり、この本の存在にさえ気づけば、チェスの知識がなくても大丈夫なの」
「あのテープには、いろいろと仕掛けが隠されていたんですね」
「そうよ。
兄さんは意地悪な罠も仕掛けたけど、親切なヒントも用意してあったのよ」



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