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欲望という名のゲーム?130

[859]  矢口 沙緒  2010-09-12投稿



二人の間に小さな沈黙があった。
そして、鹿島がゆっくりと口を開いた。
「なるほど、私はミスをしたわけですね。
…しかし、恐れ入った。
孝子様の類い希な頭脳に、敬意を表しておきましょう。
確かにあなたのおっしゃる通りです。
雅則様が指定なさったのは、五月の二十日です。
テープに細工をしたのも私です」
「私達兄弟を五枚のカードとするなら、貴方はジョーカーだったのよ。
それに気付いたから、私はなおさら宝探しに興味のないフリをしたの」
「私もミスを犯しましたが、しかし孝子様も最後になってミスをなさいましたね」
そう言って、鹿島はまた一歩近付いて来た。
孝子は無言で一歩下がる。
「ここには私と孝子様の二人きりです。
孝子様はニ百八十億円の本当の価値をご存じないようですね。
だが、深雪様は知っていらっしゃいましたよ。
ニ百八十億円は、悪魔に魂を売る時の金額なのですよ。
そして、人間から理性を失わせる金額なのですよ。
さぁ、それをこっちに渡しなさい」
決して大声を出さず、押し殺した声でいうのが、余計に不気味だった。
鹿島がまた一歩近寄って来た。
孝子がもう一歩下がった。
そして、背中が壁に当たった。
「もう、あとがないようですね。
さぁ、それを渡しなさい。
それとも…
あなたの大好きな雅則兄さんに、会わせて差し上げましょうか?」
そう言って、鹿島が最後の一歩を詰めようとした時、急に孝子が泣き出しそうなほど哀しい表情をした。
その目が、哀れなものを見るように鹿島を見た。
それが、鹿島と向かい合ってからずっと、彼女がポーカーフェイスの下に隠し続けていた顔だった。
「まだ分からないの、鹿島さん」
孝子は嘆くように言った。
「ゲームは終わったのよ」
そう言って孝子は鹿島に一歩近付いていき、四枚の封筒を彼に渡した。
「貴方、負けたのよ」
鹿島は受け取った封筒を見た。
そして、驚きの表情で孝子を見た。
「カラ…
なんですね、全部」
孝子が小さくうなづいた。
四枚の封筒は、確かに封を切ってはいなかった。
ただ、裏にカッターナイフの切れ目があった。
孝子は最後まで封筒の裏を見せずにいた。
最後の最後まで、カードを伏せていたのだ。


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