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「まほろば」僕の居るべき場所 2

[320]  恒 星介  2010-09-26投稿
僕の家は田舎の酒屋である。
あまりにも田舎すぎて「コンビニにしませんか?」という勧誘もこないほどの田舎なのである。
店は、父と兄でやっているのであるが、店の酒の半分は父の体内へと消えているみたいだ。また、兄も兄嫁も外へ仕事に出ているので、本当のところ、父の道楽で続けているようなもなのだ。
しかし、昭和30年代頃は炭鉱の人達で、この町も今より人口が2倍ほどあり、この飲んべえの父、いや、その頃はその父親である元祖飲んべえの祖父でも商売になっていたらしい しかし、時は平成!あちらこちらにディスカウントの酒屋が建ち並ぶ現在に至っては、益々、没落の一途をたどる我が家なのであります。
さて、今日も朝9時、明日から2日間のバイト休みに備え、両手いっぱいのロス弁とロスの飲み物を抱えて帰って来た僕に、向かえの家ねオバチャンが、
「サダちゃん、今終わったとね?」と問いかけた。
僕は、「ああ、オバチャン、プリン食べるや?」と、問い返す。
するとオバチャンは、「わぁー、いっぱいやね!よかとね?」と言いながらも、嬉しそうな目をして袋を覗き込んだ。
「よかばい!全部期限切れやけどね!」そう僕が笑うと、オバチャンは、「死にはせんろーもん!アハハハ」と高笑いした。その声が、閑散とした山道の続く田舎の青空にやっと山蔭から照らし出したおてんとうまのようにコダマしていった。
家に入ると、父がまた朝から酒を飲んでいる。父の酒の飲み方は、俗に言う一気飲みである。昔は、ほとんどつまみを食べず、塩を舐め舐め飲んでいたらしいのだが、死んだ母から、「みすぼらしい」と注意され今は、スボ(蒲鉾)や、漬物くらいは口にしているようだ。
父の瞳は、遥か天空を指し、定まるか定まらないかの中間くらいの目差しで、遠き遠きものを見ているようでもあったが、眼の奥に浮かぶものは、空虚の他の何物でもないようだ。

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