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子供のセカイ。227

[421]  アンヌ  2011-01-02投稿
しかし美香は、常に周囲へ視線を飛ばし、耳を尖らせながら、警戒を怠らないようにして歩いていた。
美香たちはつい四、五日前、指名手配されたばかりの身である。王子とジーナが身代わりで捕まってくれたとはいえ、覇王がもっとも殺意を抱いているのは美香だ。美香は不意に、夜羽部隊の女隊員のことを思い出した。無情な赤い瞳は、ただ目標の美香だけを捉えて刃を構えていた。彼女たちとの死闘がくっきりと頭の中に蘇り、美香は胸に迫るものを飲み込むように唇を噛み締めた。今、あんな事態になったら、本当に美香は死んでしまうだろう。ここには助けてくれる耕太も、ミルバもいないのだ。
街には確実に追手が放たれている。今こうしている間にも、美香と同じように、ラディスパークを徘徊しているかもしれない。
言ってしまえば、例え変身していたところで、危険なことに代わりはなかった。耕太が想像の力をどれだけ持続できるかも未知数だったし、第一美香は、「すぐ戻る」と言って家を出てきてしまっているのだ。
それでも美香は、例えどんなに危険でも、街へ出ずにはいられなかった。
「……。」
美香は物憂げな眼差しを群れ成す想像物の方に向けた。目を凝らして雑多な人混みを辿るが、そこに美香の探す人物の姿はない。
美香は、舞子の魂の分け身を探していた。
もちろん耕太にはそのことを黙っている。
(舞子、どこにいるのかしら……。)
美香は重苦しい気持ちを押し出すように息を吐くと、自分のものではない大人の女の掌で、ぎゅっと強くローブの裾を握り締めた。
魂の分け身が、舞子本人でないことはわかっている。しかし小学三年生の姿をした舞子は、美香の記憶の中の彼女そのものであり、美香にはどうしても割り切って考えることができなかった。ただでさえ今、本来舞子の魂の分け身が住む家を美香たちが占拠する形になってしまっているのだ。どこで夜を越しているのか、怖い思いをしていないか――時間が経つごとに、徐々に気になり出し、居てもたってもいられなくなったのだ。
(不思議なものね。)
美香は厚い唇に自嘲的な笑みをこぼした。
舞子本人に対しては、今となっては蔑むような気持ちさえ生まれているというのに。

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