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世界で一つの物語

[695] 桃子 2011-02-05投稿
早朝
酔った千鳥足で
フラフラと歩いていると
ガラス引き戸の内と外で引き戸を空けるのを苦闘している
老女二人が目に入った


あ〜大変ね〜

と頭で思った時に
10年前の出来事が
記憶から甦った



桃子(私)
立って席譲れよ

普段は私に優しい彼が
電車中で
老女を目の前に
座席を立とうとしない
私に珍しくイラついたようだ



私は戸惑いながらも
席を譲り

電車を一緒に降りた後
不満げに彼に言った


貴方って
お年寄りに優しいのね…

彼はいつもの笑顔で
優雅に語りかけてくれる

優しい?
少しちゃうなぁ
あぁ(席を譲る)した方がカッコ良く見えるやん
桃子ぉ
優しいなんて意識するのは思い上がりや
所詮席を譲るなんて
俺の自己満足や



他人と関わらないのが
礼儀の都会

…しかし
私は引き戸を空けるのに苦戦する老女二人に近づいた


あのぉ
何かお手伝いしましょうか


老女達は少し驚いたようだ


酔った私は酒臭く
容姿服装全てが
水商売以外見えない


しかし私を見た瞬間は
警戒の雰囲気だったが
私と目が合った時に
引き戸の内側にいた老女が
ポロポロと涙を流した


お嬢さん…
ごめんなさいね
どうしても
戸が開かないのよ


私まで
なぜか泣きたくなった

人に感謝されることなんてない
水商売の殺伐とした狭い世界に自ら閉じ籠ってる日常

心に爽やかな風が吹いた
自己満足も素敵じゃん!

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