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子供のセカイ。237

[355] アンヌ 2011-03-28投稿
ハントはぎりぎりと歯を噛み締め、額に手を当てている。眉間に深いしわが寄り、苦悶の表情だ。
何がそこまで彼を追い詰めているのだろうか。
(……だが、同情している時間はないんだ)
ジーナは少しだけハントを憐れに思ったが、そんなことはおくびにも出さずに、きっぱりと言った。
「ミルバの生死は、今は置いておけ。それより、トンネル開通の方が遥かに重大な問題だ。お前たち治安部隊の心積もりを知りたい」
「……お前らはどうする気だ」
「戦う。城に向かう手筈になっている美香たちと合流し、美香の進む道を切り開く。ここから抜け出せず、合流が叶わないようなら、せいぜい強制労働施設で派手に暴れて計画を頓挫させてやるさ」
ジーナは普段とは打って変わって、軽薄な態度を装って言った。その見通しがいかに甘いか、ジーナ自身よくわかっていた。
「……」
ハントは何も言わなかった。
ジーナもそれ以上はハントを問い詰めず、ただ、す、とハントの脇を通り過ぎながら、
「一日待つ。明日中に返事をよこさないようなら、私は王子と二人で行動を起こす」
とがった耳にそう囁き、青年から離れた。
しかしジーナは、薄暗い廊下を数歩歩いた所で立ち止まり、振り返る。ぴくりとも動かない跳ねた黒髪の後頭部を睨みつけると、鋭い声で言った。
「……だが、これだけは忘れるな。これはお前とミルバ、二人だけの問題じゃない。“子供のセカイ”――ひいては、“真セカイ”の存亡に関わってくるんだ」
そしてジーナは歩き去った。肩をいからせたその姿は、紛うことなく、勇猛な戦士そのものだった。
ハントはしばらく動けなかった。
ジーナが完全に去った後、ハントは足の裏で、ダン!と石の床を踏み鳴らした。
――それでも、未だに迷いを抱える脆弱な己の精神に嫌気がさした。


ラドラスはトンネルを見つめていた。
青いトンネルはどこまでも続いている。その壁面が時折、立ち尽くすラドラスをからかうように煌めいて、彼の脇をきらきらと光りながら駆け抜けていく。
ラドラスは無言だった。周囲に彼以外の人影はない。皆、今日の労働を終え、ねぐらに帰ったのだ。何人かの取り巻きがラドラスと共に残ろうとしたが、ジーナを助けに行った時同様、うまく言いくるめて引き離した。
今は一人になりたかった。

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