天使の箱
「死にたい」
男は独りそう呟いた。
いじめ。失望。リストラ。鬱病。借金。離婚。そして孤独。
生まれてからこの四十年間、あらゆる苦難が男を襲った。
もはや生きることが最大の苦痛であった。
それゆえ男は、強く死を望んだ。
しかし男には勇気がなかった。死を望んでいながら、一瞬の苦しみを恐れ、なかなかその命を絶つことができないのだった。
そんな哀れな臆病者の前に、ある日突然、小さな天使が現れた。
「あなた、死にたいのでしょう?」
「………」
「そんなあなたに、この素敵な箱を差し上げましょう。この箱を開けた時、あなたは楽に死ぬことができるでしょう」
天使は優しく微笑みながら、天使らしからぬ恐ろしいことを言い残して、姿を消してしまった。
ただ、男にとってはまさに天使そのものなのであった。
「この箱を開ければ、楽に死ねる……。何が入っているのだろう」
その箱は鉄製の金庫のようなもので、大きさのわりに重たいものだった。
とにかく死にたい一心で、男は箱を一通り眺めたあと、すぐに開けようと試みた。ただ、素手だけでは到底開いてくれそうになかったため、男は金槌を用意して無理やりこじ開けようと考えた。
それでも箱はびくともしなかった。電動ノコギリを駆使しても、傷ひとつつかない。
男はそれでも諦めなかった。早く死にたかったのだ。
「中には一体何が?薬か?それとも、得体も知れない物凄い何かが?」
それからはもどかしい日々が続いた。中身もわからぬまま、男はその頑丈な箱を開けることに身を削った。
それから長い長い歳月が流れた。
いつものように男が箱をいじっていると、思いがけずその瞬間はやって来た。
今までどんなに試行錯誤を重ねても開く気配を見せなかった頑丈な箱が、いとも簡単に開いたのだ。
高鳴る胸をおさえながら、男はゆっくりと箱の中をのぞき込んだ。
箱の中には………
何も入っていなかった。
男は、ゆったりとした動きで空っぽの箱を抱き上げた。
間もなく男は、シワだらけの顔をそっと微笑ませながら、安らかに、永遠の眠りについた。
男は独りそう呟いた。
いじめ。失望。リストラ。鬱病。借金。離婚。そして孤独。
生まれてからこの四十年間、あらゆる苦難が男を襲った。
もはや生きることが最大の苦痛であった。
それゆえ男は、強く死を望んだ。
しかし男には勇気がなかった。死を望んでいながら、一瞬の苦しみを恐れ、なかなかその命を絶つことができないのだった。
そんな哀れな臆病者の前に、ある日突然、小さな天使が現れた。
「あなた、死にたいのでしょう?」
「………」
「そんなあなたに、この素敵な箱を差し上げましょう。この箱を開けた時、あなたは楽に死ぬことができるでしょう」
天使は優しく微笑みながら、天使らしからぬ恐ろしいことを言い残して、姿を消してしまった。
ただ、男にとってはまさに天使そのものなのであった。
「この箱を開ければ、楽に死ねる……。何が入っているのだろう」
その箱は鉄製の金庫のようなもので、大きさのわりに重たいものだった。
とにかく死にたい一心で、男は箱を一通り眺めたあと、すぐに開けようと試みた。ただ、素手だけでは到底開いてくれそうになかったため、男は金槌を用意して無理やりこじ開けようと考えた。
それでも箱はびくともしなかった。電動ノコギリを駆使しても、傷ひとつつかない。
男はそれでも諦めなかった。早く死にたかったのだ。
「中には一体何が?薬か?それとも、得体も知れない物凄い何かが?」
それからはもどかしい日々が続いた。中身もわからぬまま、男はその頑丈な箱を開けることに身を削った。
それから長い長い歳月が流れた。
いつものように男が箱をいじっていると、思いがけずその瞬間はやって来た。
今までどんなに試行錯誤を重ねても開く気配を見せなかった頑丈な箱が、いとも簡単に開いたのだ。
高鳴る胸をおさえながら、男はゆっくりと箱の中をのぞき込んだ。
箱の中には………
何も入っていなかった。
男は、ゆったりとした動きで空っぽの箱を抱き上げた。
間もなく男は、シワだらけの顔をそっと微笑ませながら、安らかに、永遠の眠りについた。
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